東日本大震災がきっかけでレトルトは実力を証明
確かに便利さや多種多様さは非常に魅力的ではあるが、井上氏いわく「現在のレトルトカレーは保存食品の域を超えている」のだそうだ。
「確かに初期のレトルトカレーは具材も小さく、高温高圧で殺菌したことにより包装材の内側が焼けることで生まれる独特の臭い、いわゆるレトルト臭も強いものばかりでした。そのため、あくまで保存食品であり、家でつくるカレーに比べれば美味しくはないと思われていました。ですが1980年代から90年代にかけての間、メーカーは具材に工夫を凝らしたり、包装に使う素材を改良することでレトルト臭をなくしたりと、レトルトカレーを美味しくつくるノウハウを積み上げていたのです。
それでも2010年頃までは、多くの方々が『レトルトカレーは美味しくない』というイメージを持っていたものです。けれど、東日本大震災でお店から食料品がなくなった際に、他に何もないからとレトルトカレーを口にしたところ、とても美味しくなっていることに気づいた方が多く、一気に売り上げが伸びました。つまり、東日本大震災によって、レトルトカレーの認識が『ただの保存食品』から『日常的に食べる美味しいカレー』へと変化した、というわけです」(同)
レトルトカレーが高いクオリティを獲得したことにより、さらに新しいかたちのニーズも生まれてきていると井上氏は続ける。
「レトルトカレーの消費者層として近年増えてきているのが、高齢者層です。特にお年寄りの夫婦だけで暮らしているご家庭などでは、普段から好きなレトルトカレーを備蓄していることが多いそうで、味のレベルも高く満足できるからと、料理をするのが面倒なときにはレトルトカレーを食べることが多いそうです。
一方、若者の間でもレトルトカレーへのニーズは高まってきています。今までの食生活のパターンとしては、昼食は適当にすませ、夕食はしっかり食べるスタイルが一般的でしたが、近年の若者の間では昼間にしっかり食べて、夜は簡単にすませる、というパターンが増えてきているそうです。美味しいうえ簡単につくれるレトルトカレーは、軽い夕食に最適だということで選ぶ若者が増えてきているようですね」(同)