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セミはナッツのような味?昆虫料理研究家に聞く“初心者におすすめの昆虫食”と注意点

文=清談社
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「gettyimages」より

 牛や豚などの畜産物よりも低コストで養殖が可能であり、豊富なタンパク質を有している昆虫。近年は「SDGs(持続可能な開発目標)」との親和性が高い食材として各方面から注目を集めており、有用な食料源としての認知が進んでいる。

 近い将来、食用虫が日々の食卓を支える日が来るのだろうか。昆虫料理研究家でNPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長の内山昭一氏に、今後の展開を聞いた。

昆虫食が地球環境に優しい理由

 2013年にFAO(国連食糧農業機関)はタンパク質危機や水不足、地球温暖化対策の解決手段として昆虫食を推奨。これを機に「昆虫食をめぐる論調は180度変わった」と内山氏は語る。

「一昔前は“ゲテモノ食品”として見なされ、『どんな味がするのか』『どんな虫がおいしいのか』といった趣旨の取材を受けることがほとんどでした。それが、13年を境に地球環境保護の観点から昆虫食に着目する報道が増え始め、現在はそちらが主流になっています。FAOの報告によると、世界の人口は増加傾向にあるのに対して、地球温暖化の進行によって得られる食糧は減少していき、今のうちに手を打っておかないと、そう遠くない将来、世界的な食糧危機が生じるとされています。そこで白羽の矢が立ったのが昆虫です」(内山氏)

 では、昆虫食はどのような点で地球環境に優しいのだろうか。

「牛や豚といった家畜動物の飼料を育てるためには広大な土地が必要であり、森林伐採の進行を助長します。昆虫は家畜の数分の一の飼料で育つため、環境に与える負荷はずっと少ないのです。また、家畜は地球温暖化の原因となる温室効果ガスを大量に排出します。他方で、昆虫が発生させる温室効果ガスは微々たるもの。食肉に代わって食虫文化を推し進めることは、地球温暖化抑止にもつながるのです」(同)

圧倒的に養殖しやすいコオロギ

 昆虫食に対する世間の関心が高まっていることを背景に、農林水産省は20年10月に「昆虫ビジネスワーキングチーム」を結成。官民一体となって、昆虫食の衛生面におけるガイドラインの作成を進めている。

「JAS(日本農林規格)のような統一した基準があれば、消費者は安心して食用虫を口にできるし、ビジネスチャンスも広がります。現在、国内で昆虫食を取り扱っている会社の多くは、食虫文化が根付いているタイからの輸入に頼っています。そのため、値段が高く、ネットで購入するにしても、おいそれと手を出しにくいというデメリットがあります。昆虫食のガイドラインが作成され、国内で養殖を行う会社が増えると、価格が下がり、より手軽に購入することが可能になります」(同)

 現在、日本国内で昆虫食の販売を行っている会社はおよそ15社。輸入販売をメインに行っているところもあれば、国内で食用コオロギを養殖し、販売している会社も次第に増えてきているという。

「コオロギは他の昆虫に比べて、圧倒的に養殖に向いているのです。雑食なので飼料に困らず、年に何回も収穫することができ、外の皮がやわらかいので加工もしやすい。また、かねてより爬虫類などのペットの餌として使われており、飼育のノウハウが確立しているのも、養殖のしやすさにつながっています。いずれの種類も皮ごと食べることができるので、素揚げにしてサクサクの食感を楽しんだり、ピザのトッピングにするなど、何通りもの味わい方ができますよ」(同)

初心者でも食べやすい昆虫は?

 国内で養殖が進んでいるコオロギを例外として、ほとんどの食用虫は輸入品であるため、業者を通して購入すると少なからぬコストがかかる。費用をかけずに昆虫食を楽しむためには、身近な虫を捕まえて調理するのが手っ取り早い。初心者でも食べやすい、おすすめの昆虫を内山氏に教えてもらった。

「夏場にかけて大量発生するセミは幼虫と成虫で味わいが異なり、簡単に捕れるのでおすすめです。セミの幼虫は日が暮れると地面から這い出て木によじ登り、葉の裏側で羽化の準備をするという習性を持っているため、木を登っているところを捕らえるといいでしょう。お湯でゆでてチリソースと和える『セミチリ』にしても良し、燻製にして肉厚でジューシーな口当たりを堪能しても良し。ナッツのようなクリーミーな味が特徴です」(同)

 内山氏によると、セミの成虫は殻が固いため、揚げて食べるのがベター。スナック菓子のような食感と、エビのような香りが堪能できるという。また、捕獲したセミは通気性の良い洗濯ネットに入れるのがおすすめだ。イキの良い状態を保てる上、そのまま湯を張った鍋に入れることができるため、逃げ出すのを防げるという。

 では、昆虫を捕まえて食べる上で気をつけるべきポイントは何だろうか。

「昆虫は十分に加熱し、調理前によく手を洗ってください。また、エビやカニなどの甲殻類アレルギー体質の人は注意した方がいいでしょう。原因物質とされるトロポミオシンが昆虫にも含まれているためです。コオロギのような雑食性の昆虫は、個体によっては腐った動物の死骸を食べている可能性があるので、捕らえて食べるまでに数日空けて、糞抜きすることをおすすめします。また、ツチハンミョウ科の昆虫はカンタリージンという非常に強い毒を持っており、これは加熱しても分解しないため、間違っても口にしないようにしてください。いずれにせよ、食する前に昆虫の特性や種類をしっかり認識することが大切です」(同)

 内山氏は幼少時から昆虫食に親しみ、20年以上にわたって研究活動を行ってきた。今後、昆虫は食肉に代わるタンパク源として存在感を増していくことが予想されるが、「昆虫食が普及することは、食育的な面にもポジティブな効果を及ぼす」と内山氏は語る。

「私たちは、食べられるものと食べられないものの判断を賞味期限や消費期限といった“情報”に基づいて下すわけですが、舌や手触りといった感覚で食べ物を理解することも重要だと思っています。人間も動物ですから、パッケージ化された食品ばかり食べていたら体は衰弱していく一方です。片や、感覚を研ぎ澄ませて未知の食材を味わうことは、人間を強くします。昆虫食は“五感を使った食育”を実現する格好の教材なのです」(同)

 毒性のあるごく一部の虫に気をつけて、食する前に火を通して殺菌すれば、昆虫は野草やキノコに比べて安全な食べ物だという。持続可能な社会に思いを馳せつつ、食の幅を広げるために、ぜひ一度味わってみてはいかがだろうか。

(文=清談社)

清談社

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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