最近、コオロギなどの昆虫が“未来の食”として多くのメディアで取り上げられ、昆虫食ブームの様相を呈している。しかし、ネット上では「つくられたブームでは」「利権があるのではないか」といった疑いから猛反発が起きており、コオロギパウダーを使った給食を試食として生徒に出した高校が炎上騒動に見舞われるなど波紋が広がっている。
コオロギなどの昆虫は、牛や豚に比べ、低い環境負荷で生産できる次世代のたんぱく源として注目されている。3年後には昆虫食の市場規模が世界で約1000億円に達するとの試算もあり、成長分野として大手からベンチャーまで各企業が参入しているほか、このところ急激にメディアで取り上げられる回数も増えた。昨年2月には、河野太郎デジタル相がベンチャー企業発表会で乾燥コオロギを試食し、「おいしかった。抵抗なく、あっさり」と絶賛したことも話題になった。
メディアや企業が昆虫食をもてはやす一方、消費者の抵抗感は根強い。今年1月にホットペッパーグルメ外食総研が発表した「『避ける』と思われている食品・食品技術」についてのアンケート調査の結果によると、食べることに抵抗感がある食品・食品技術の1位は「昆虫食」。「絶対に避ける」という人が62.4%、「できれば避ける」を含めると約9割(88.7%)が昆虫食に抵抗を示した。
(参考:ホットペッパーグルメ外食総研/「避ける」と思われている食品・食品技術発表! 「昆虫食」「人工着色料」を避ける人の割合は?)
だが、それでもメディアの昆虫食礼賛は止まず、1月に「週刊朝日」(朝日新聞出版)では「ハエの幼虫は意外と美味!? コオロギに勝る強みとは」と題し、イエバエの幼虫(マゴット)を使った食品を紹介。マゴットと聞くとおしゃれな響きがしなくもないが、つまりは「ウジ虫」なのでコオロギ以上に衝撃的だ。
盛り上げようとするメディアと世間の反応に温度差があり、それが炎上騒動に発展する事態も起きている。徳島のある高校の食物科でコオロギパウダーを使った給食を試食で出したところ、学校に「なぜ生徒に食べさせるのか」などとクレームの電話が殺到し、ネット上でも猛批判にさらされた。あくまで専門科目での希望者に限定した試食だったが、現在も騒動は収束していない状況だ。
また、食用コオロギパウダーを使ったフィナンシェやバゲットなどの「Korogi Cafe(コオロギカフェ)」シリーズを販売する敷島製パンのブランド「Pasco」にも、SNS上の消費者から反発の声が続出。コオロギパウダーを使っていない同社の食パンなどにまで嫌悪感を示し、不買運動を呼び掛ける人が現れ、同社が公式サイトで「本シリーズ以外の商品を製造している工場とは、工場建屋・製造ライン・製造スタッフが異なります」「他商品にコオロギパウダーが混入する可能性はなく、本シリーズ以外にコオロギパウダーを使用する予定はございません」と説明する事態になった。
一連の騒動を受けてネット上では賛否両論が発生し、これに2ちゃんねる開設者の「ひろゆき」こと西村博之氏も参戦。ひろゆき氏は2月末、自身のTwitterで2012年に海外の昆虫大食いコンテストで優勝者の男性が大会直後に急死したとのニュースを引用しながら、「昔から食べられてるイナゴやざざ虫以外の虫には、謎の寄生虫や細菌や毒がある可能性があるので食べちゃダメです」と断じた。
続けて、ひろゆき氏は「ふざけてなめくじ食べた男性死亡、寄生虫で昏睡とまひ」とのニュースを引用し、「人間が食べてない虫は、寄生虫や雑菌やアレルギーやら何が起こるかわからないので、食べちゃダメです。『外国で食べてる人がいる』も安全ではありません。日本人が、ガンジス川の水を飲むと病院送りになります」と持論を展開。さらに、日本国内で牛乳が余って廃棄されているという話題と絡めて「コオロギ食べるくらいなら牛乳飲めば良いのにね」とコメントし、昆虫食に否定的な立場を示した。
世間の拒絶反応の原因としては、ひろゆき氏が指摘したように昆虫食は寄生虫やアレルギー反応などについて未知な部分が多く、健康面や衛生面での抵抗感があることがあげられる。もちろん、適切な環境で飼育された昆虫であれば衛生的な問題はないとされ、アレルギーについても、たとえばコオロギならエビやカニなど甲殻類と類似した成分を含むことから起きる可能性があるもので、昆虫食に限った話ではないとされる。ただ、理屈でそうだと分かっていても拒絶感はなかなか薄まらないようだ。
昆虫食への不信感をより高めているのが“公金チューチュー”疑惑だ。SNS上では「食用コオロギを養殖すると補助金が出るらしい」「コオロギ利権で政治家と企業がズブズブになっている」といった噂が飛び交い、Twitterでは「#コオロギを食べない連合」なるハッシュタグも誕生した。
ただ、この噂は補助金や低金利融資が受けられる「認定農業者制度」にコオロギ養殖を手がける企業が認定されたことが発端のようで、同制度は農業・畜産全般を対象にした制度であって昆虫養殖だけが優遇されているわけではない。だが、それでも噂の拡散は止まらず、同制度以外の「利権」の存在を指摘する声もあるなど混沌化している状況だ。
「強引にブーム化されている」という印象も否めない昆虫食。メディアや企業が本当に昆虫食を広めたいなら、世間の温度と合わせてじっくりと安全性や利点を訴えていった方が反発が少なそうだが……。