たんぱく質危機――世界の人口増を背景に、2050年にたんぱく質の供給が需要をまかなえなくなると論議を呼んでいる。その解決策として植物性代替肉とともに着目されているのが昆虫食で、2013年、国連食糧農業機関(FAO)は昆虫食を推奨する報告を発表した。昆虫食の代表的な資源がコオロギである。
コオロギのたんぱく質含有量は100グラム当たり牛肉の4倍、温室効果ガス(体重1キログラム当たり)・餌(同)・水(たんぱく質1グラム当たり)・飼育スペース(同)の飼育コストの総量は、牛の10分の1にすぎない。すでに欧州では、コオロギのパウダーを配合したパンやビスケットなどが街のスーパーで販売されている。日本はまだ萌芽の段階だが、20年に設立されたフードテック官民協議会は「コオロギ・ミズアブ生産ガイドライン」を策定し、翌21年に農林水産省が「代替肉・昆虫食の研究開発等、フードテック(食に関する最先端技術)の展開を産学官連携で推進」することを盛り込んだ「みどりの食料システム戦略」を策定する。「みどりの食料システム戦略」は「経済財政運営と改革の基本方針 2021」(骨太の方針)にも記載された。
だがコオロギの食用化に着目されたのは近年のことではなく、じつに33年も前に食用化を発案した人物がいる。立石學氏だ。現在は生物投資型フードテックベンチャー企業・株式会社フードリソース(東京都新宿区)取締役開発者を務める立石氏は述懐する。
「私は学生時代に知人が所属していた、バイオテクノロジーの研究室に訪問したのがきっかけでした。研究室には三菱化学生命科学研究所(2010年に解散)と、マウス、ラット、ワーム(シマミミズ)、フタホシコオロギ、アカハライモリ、アメリカザリガニの共同研究をしていて、生命サイクルが3カ月と短いフタホシコオロギの希少性と社会貢献の資源になり得ることを認識しました。その後、遺伝工学系の研究所を見学して、生物専攻に在学中は注力しました」
コオロギ飼育の本格的な事業化
その後、1998年に立石氏は「餌料用コオロギの繁殖方法」で特許を取得し、株式会社フードリソースを設立した。主に研究に注力してきたが、2022年に本格的な事業化に乗り出す判断を下したという。昆虫食に事業機会を見いだせそうなことに加え、立石氏のビジネスに対する考え方の変化が大きく影響しているようだ。
立石氏は株式会社フードリソースの経営とは別に、事業家として多くのビジネスの立上げ、及び経営に携わってきた。
52歳という人生の折り返し地点となった今、自分の培った知識を人のために・世の中のために還元したいと考えるようになった。
立石氏は深刻な問題意識を抱いている。
「世界的な食糧争奪戦の時代が来ると考えています。異常気象による収穫量の減少、世界的な就農人口の減少、中国による高級食材の買い占めなどを背景に、日本のような食糧自給率の低い国は干上がってしまいます。しかし、温室効果ガスや水資源など環境負荷の大きい家畜や養殖は限界を迎えていることから、未開拓の食糧資源であるコオロギ飼育の本格的な事業化に注目しました」
この問題意識に同窓生が発破をかける。
同窓生には政財界やマスメディア界の要職に就いている人も多く、何人かに諭されたという。
「そもそも日本でコオロギの飼育法を発案したのはオマエなのだから、話題になり始めた今こそ、オマエが第一人者として世間に出て正しい知識を普及させ、コオロギ事業を実践すべきだ」
いまや同窓生の知己は大半が50歳を過ぎ、セカンドキャリアを考える時期に入った。その複数名が「これからは社会貢献がしたいので、コオロギの事業化に協力したい」と後押ししてくれて、立石氏は決意を固めたのである。
コオロギの供給先は食糧用と飼料用に大別できるが、当面、立石氏は飼料用に供給してゆく。判断材料のひとつは、2022年に県立高校で、食用コオロギ―の粉末を使用したコロッケを給食に出したところ、「生徒に昆虫を食べさせるのか?」という批判が殺到したことだ。ゲテモノを食べるイメージが伝播してしまったのだ。
「コオロギにはたんぱく質に加え、亜鉛、鉄分、カルシウム、マグネシウム、ビタミン、オメガ3、食物繊維などの栄養素が含まれています。ただ今の時点で、コオロギの粉末を使用した食品を食べることに、世間の抵抗があることは事実だと思います。しかも甲殻類アレルギーがあるように、私は30年前から昆虫アレルギーがあるのではないかと思ってきました。そこで、まずは飼料用として畜産や養殖向けの餌、ペットフードに混ぜるコオロギの粉末を生産・供給することを考えました」(立石氏)
立石氏が確立した生産・供給体制は、一般の人が自宅で飼育したコオロギを株式会社フードリソースが買い取って、飼料メーカーに供給する方式。在宅ワークによってコオロギ飼育を普及させ、飼育従事者がインセクトブリーダー(昆虫繁殖家)として収益を上げられる仕組みで、「物価上昇で賃金が上がらない状況にも、コオロギ飼育は寄与できる」(同)と判断した。
SDGsにも貢献
この取材には、SDGsに強い関心を持つ女優・作家の今野杏南さんが同席した。「初めて聞く話ばかりで、本当にいろいろな可能性がありますね」と感嘆する今野さんに、立石氏は飼育ワークのフローを説明した。
まずは希望者から電話で受け付けて、飼育するスペースや環境を確認したうえで、買取保証書と売買契約書を交わす。株式会社フードリソースから「飼育セット」として、飼育読本、餌、種コオロギ(オス250匹、メス250匹)を宅配便で配送する。飼育スペースは室内で、アクリル製半透明の衣装ケース(70×40×30センチメートル)内で飼育し、産卵・孵化を経て約3カ月後に成虫に育った時点で、宅配便で株式会社フードリソースに発送する。
メス1匹当たり毎日約150~200匹を10日から2週間にかけて産卵し続け、1ケース当たり3500匹の成虫が育つ。買取価格は成虫1匹につき2円なので、1ケース分の成虫で3500匹×2円=7000円の買取となる。かりに40ケースで飼育すれば28万円の収入となる。出荷しないコオロギが種コオロギとして産卵するためにネズミ算式に増え、新たに仕入れる必要はなく、衣装ケース内のコオロギの総数はいわば半永久的に変わらない。毎日成虫が育ち続ける3カ月以降は毎月出荷できる。
一方、コストは最初に株式会社フードリソースの「飼育セット」の購入と、衣装ケース代(1個1000円程度)、植木鉢と霧吹きなど(約1万円)。さらに餌が月5000円。室内での飼育なので、飼育用としての特別な電気料金や水道料金は発生しない。衣装ケースは縦積みできるので、多くのスペースも必要としない。試算によると、出荷が始まる3カ月以降は毎月の粗利益率が43.4%で推移するという。
「でも、今野さん、仕事で疲れて帰ってきてから、副業でコオロギを飼育する姿はネクラに見えませんか?」
そう立石氏が尋ねると、今野さんは「確かに……」と頷いたが、次の説明を聞くと表情を一変させ、目を輝かせた。
「コオロギの飼育は帰宅してから延々と行うわけではなく、毎朝餌をあげて、1日2回水をあげるだけです。飼育を通して子供に生命の尊さや食糧問題、環境負荷を実感してもらい、楽しくSDGsを学ぶこともできます。餌は自宅で出た野菜のクズや食べ残しなどでも代用できるので、この点でもSDGsです」
今野さんの問題意識に火が点き、立石氏とのキャッチボールに弾みがついてゆく。
「温度や湿度は人間の生活環境と同じです」(立石)
「そこまで繊細な生き物ではなくて、それでもたんぱく質が豊富にでき上るんですね。でも、出荷するコオロギの仕分け作業が大変そうですね?」(今野)
「ノウハウがありますから、そうでもありません。飼育読本に書いてあります」(立石)
「この子は弱そうだから出荷できないという場合もあるんですか?」(今野)
「買取は鮮度が大事なので、基準に満たした、生きているコオロギに限りますが、死んでしまったコオロギも可哀想なので、無駄にはしたくはありません。今後買取方法や加工方法を整備していく予定です。」(立石)
「猫や犬にいたずらをされることはないんですか?」(今野)
「衣装ケースの蓋を閉めるので、ケースをひっくり返されたりしない限り大丈夫です」(立石)
第1弾のインセクトブリーダーの募集は50組。主婦や高齢者も対象に加えているが、大量飼育による事業化を考えている農家からも申し込みが入っている。
立石氏は「誰でも参加できます!」と強調する。「最初は5ケース程度、月々3~4万円の収入からはじめて、徐々に規模を増やしていただければいいんです。コオロギを大切に育てて頂く仲間を増やしたい。参加して頂く皆様が安心して飼育できるよう、全力でサポートしていきます。まずはお気軽に無料にて資料をご請求ください。」
立石氏もビニールハウスを3棟建てる計画で、自社飼育の準備に入った。33年前、学生時代に着眼した生物資源が、春秋を重ねて食料安全保障という国家課題の解決に向かっている。
立石氏はその域に入っている。
株式会社フードリソース
TEL 03-5937-1970(代表)
info@foodresource.co.jp
(文=Business Journal編集部)
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