死者、行方不明者200人以上を記録した7月の西日本豪雨。その後の紀伊半島に上陸した「台風12号」は、近畿、中国、九州と西に向かって進むという異例のコースをたどった。そのため、想定外の被害も各地で発生した。
地球温暖化のせいで台風の発生も多くなり、8月28日現在で21の多さを数える。9月以降も、大風、大雨による被害が心配だ。
その被害は突風や河川の氾濫による家屋、橋、鉄道、道路などの損壊という物理的なものにとどまらない。大雨の後にできる多数の水たまりで発生する蚊による被害も深刻となる。
「世の中に か(蚊)ほどうるさき ものはなし ぶんぶ(文武)と言うて 夜も寝られず」
これは「学問(文)に勤しみ、武道に励むべし」と質素倹約を奨励した「寛政の改革」を皮肉った狂歌だと記憶しているが、蚊による害は、単に「寝られない」程度のものではない。
マラリアやウエストナイル熱、デング熱(ヒトスジシマカが原因。4年前に日本で流行)、ジカ熱(ヒトスジシマカが原因。妊娠中の女性がかかると小頭症の子どもが生まれる可能性がある)など、蚊が媒介する病気によって毎年世界で「72万5000人」が死亡する、というのだから穏やかではない。
日本には125種の蚊が存在するが、そのなかでもっとも怖いのは「日本脳炎」を起こす「コガタアカイエカ」である。昼間に活動するヒトスジシマカ(俗にヤブ蚊)とは逆に昼間は湿地(水田、沼)やヤブのなかに潜み、夜に活動する。「日本脳炎ウイルス」に感染した豚やイノシシ、鶏の血を吸ったコガタアカイエカが人を刺し、日本脳炎を発症させる。
刺された人は「0.1%~1%」くらいの確率で、「突然の高熱」「頭痛」「吐き気・嘔吐」などを訴え、最悪の場合、「意識障害」「死」に至る。
こうした蚊も今年の夏は暑すぎて、その活動が抑制されていたようだが、気温が下がってくるこれから9月に向けて活動が活発になるので要注意だ。
蚊に刺されないようにする工夫
蚊は人の吐く息の「二酸化炭素」(CO2)や、「汗や体臭の成分(イソ吉草酸、スルカトン、ノネナール)」「体温」などに寄ってくる。
着ている衣服の色によっても差がある。白<黄<赤<青<黒の順で寄ってきやすいという。白と黒の縞模様の服を着ている人のところには特に寄ってくるというので、頭の片隅に入れておかれたほうがよい。
刺されやすい体の場所も、顔<手<足の順に多い傾向にある。足(指)が汗で蒸れている人は清潔にしておく必要がある。
なるべく蚊に刺されないようにする工夫としては、以下があげられるので、ぜひ参考にしいていただきたい。
(1)「炭酸(CO2)飲料」の摂取は少なくする。
(2)不要不急の夜間の外出は控える。やむを得ず外出するときは、白っぽい長そでの服を着用する。
(3)戸や窓の開閉は最小限にし、就寝前には寝室に蚊取り線香を焚くか、殺虫剤を噴霧する。
(4)蚊が寄ってきた場合、両手で「パチン」と叩くと、「手(の平)から発散する臭いを蚊は覚えてその人物を避け続ける習性がある」というので大いに活用すること。
(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)