トランス脂肪酸に関する有害性が明らかになるにつれて、各国でその規制が行われるようになりました。その数例を紹介しましょう。
(1)デンマーク
2003年から国内で販売されるすべての食品の油脂中におけるトランス脂肪酸の含有量を2%以下に制限。違反者には最高2年の禁固刑が科される。
(2)カナダ
18年から、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどによく使用される部分水素添加油脂(合成油脂)を食品に使用することを禁止。輸入も禁止。
(3)韓国
07年からトランス脂肪酸の使用表示を義務づけ。
(4)アメリカ
06年から食品中のトランス脂肪酸量の表示を義務づけ。併せて総脂質量、飽和脂肪酸量、総コレステロール量の表示を義務づけ。栄養表示をよく確認し、飽和脂肪酸(牛肉などに多い)、トランス脂肪酸、コレステロールの少ない食品を選ぶよう注意喚起。さらに鶏肉(皮を除いたもの、揚げていないもの)、豚、牛の赤身(脂身を除去したもの、揚げてないもの)のような脂質の少ないものを選ぶように推奨。外食で料理を注文する場合にどのような油が使用されているか質問することを奨励。
(5)ニューヨーク市
08年、飲食業者は一人前当たり0.5g以上のトランス脂肪酸を含む水素添加油脂(合成油脂)、ショートニング、マーガリンを含む食品を保管、使用、または提供してはならないと厳しく規制。
(6)中国
11年よりトランス脂肪酸の表示を義務化。
このように世界的に規制の動きが広まるなか、日本ではなんの規制もありません。厚生労働省の見解は
「我国と欧米諸国とでは食文化が異なる。したがってトランス脂肪酸に関して規制する必要はない」
というものです。日本人は全員ご飯と味噌汁を主体とする食事をしていると考えているのでしょうか。
パンには合成油脂が使用されているため、トランス脂肪酸が多く含まれていますが、そのパンにマーガリン、ファットスプレッドを塗って食べる人や、クッキー、ビスケットなどを食べる日本人は多いですが、そういう実態を厚労省は考慮していないように思えます。
私はパン食ではありません。トランス脂肪酸、合成デンプン、イーストフード、乳化剤、油脂の問題などがあるからです。パンが嫌いなわけではなく、たまに無添加の玄米パンを食べます。マーガリン、ショートニング不使用のものです。トーストにすると穀物の芳ばしさが引き立ち、そのままでも美味しくいただけます。
日本の食、今後の見通しについて
日本の食の未来について考えると、真っ暗といえる状況です。法令が改正され、生鮮食品以外の食品に関しては2020年から栄養表示が義務化されます。現在は栄養表示の義務はありませんが、20年4月1日からは必ず栄養表示をしなければなりません。栄養表示が義務化されても、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸、コレステロールの表示義務はありません。アメリカ、中国、韓国などとは異なるのです。
食品衛生法第6条には、「有害な物質が含まれ、またはこれら疑いのある食品は販売、製造、輸入、加工、使用、調理、陳列してはならない」と誠に立派な条文が存在するのです。トランス脂肪酸は有害なことが判明しており、この条文からすると、表示すれば良いとか、規制すれば良いとかという問題ではありません。トランス脂肪酸を含む食品は販売、製造はもとより陳列してもダメなのです。
これでは日本は法治国家とはいえず、国民の健康をほったらかしにした「放置国家」だといわれても仕方ないでしょう。
(文=小薮浩二郎/食品メーカー顧問)