置き去りにされる「医師の働き方改革」…医師の自己犠牲を前提に成り立つ医療の限界
医療を受ける側のメリット
NPの導入は医療提供サイドの自己満足だけではなく、医療を受ける側のメリットにもなるはずです。
例えば毎年冬に流行するインフルエンザ。本当に医師の指示がなくては、インフルエンザの迅速判定を行い、診断してはいけないのでしょうか。NPが問診で同居家族でのインフルエンザ患者の存在、そして診察で一定以上の発熱を確認した場合、インフルエンザの迅速キットで判定をすることは理にかなっていると思います。
判断を迷ったり紛らわしい場合については、医師と相談することは当然ですが、このようなタスクシフトにより、医師の業務負担軽減だけでなく、患者側にも医療機関に滞在する時間が短くてすむことや、重症の場合にはもっと時間を割いて対応してもらえる、というメリットが生まれるはずです。
もちろん、どのような医療行為をNPに任せるかは、議論の余地はあります。まずは、医師でなければできない仕事(タスク)、NPに任せても質の落ちない仕事(タスク)を見直さなくてはならないでしょう。場合によっては、NPに任せた方が結果がいい仕事(タスク)もあるかもしれません。
過重労働が医療事故を招く
働く人々の幸せのために行われるはずの働き方改革ですが、“医師不足の地域や診療科に勤める医師たち”においては“患者や地域医療への影響を考慮したため”、ますます医師たちの自己犠牲が求められてしまっているのが、多くの医療現場での現状です。
その背景には単なる医師不足ではなく、医師数の偏在、医療組織における組織マネジメント・経営管理の未熟さ、国民の医療のかかり方のあり方などの問題があります。しかし、労働時間が長い医師には疲労が溜まります。疲労の蓄積は、判断力の低下や些細なミスの増加につながることは、数々の臨床研究が明らかにしているのも事実です。
3年前にはじまった「こころの健康診断」ともいえるストレスチェック制度、近年の飲食店での受動喫煙防止の動きなどは、実はいきなり始まったものではありません。何度も法制化されそうなところで中止になりましたが、何年かかかって法制化され、現在に至ります。多くの人々は、これらの制度により恩恵を受けていると思います。
NPの導入に関しても、ぜひ再度多くの場で議題に挙がり、検討され、法制化されることを願ってやみません。
(文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事)