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西島基弘「食品の安全、その本当と嘘」

妊婦、魚介類の摂取には要注意…メチル水銀が胎児の神経系生成に影響の懸念

文=西島基弘/実践女子大学名誉教授
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妊婦、魚介類の摂取には要注意…メチル水銀が胎児の神経系生成に影響の懸念の画像1「Gettyimages」より

有機金属化合物

 有機金属化合物は有機物と金属が結合したものの総称です。食品に限って考えると、人にとって有用なものと安全性に気をつけなければならないものとがあります。

 食品に関係する有機金属化合物としては銅、亜鉛、スズ、ヒ素、水銀があります。これらの化合物は無機金属化合物と比較すると、毒性が強いものと毒性が非常に弱いものとがあります。

有機ヒ素化合物

 有機ヒ素としてはモノメチルアルソン酸 (MMA)、ジメチルアルシン酸 (DMA)、トリメチルアルシンオキサイド、アルセノベタイン、アルセノコリン、アルセノシュガーなど多くの種類があります。これら化合物の毒性は低いことが知られています。無機ヒ素は魚介類や海藻の生体内でメチル化を受けMMA、DMAになることが知られており、この形態変化によって無毒化すると考えられています。

 ヒ素がどのようなかたちで存在しているかは近年、急速に解明されるようになりました。昭和50年代に筆者は多くの食品を公定法に準じて、総ヒ素として測定したことがあります。小魚や海藻等の海産物からヒ素が検出され、食べて大丈夫なのだろうかと密かに心配をしたことがありました。しかし、多くの研究者により有機ヒ素化合物には、いろいろの種類があることや有機ヒ素は毒性が少ないこともわかってきました。

 特に魚介類のヒ素化合物はアルセノベタインであり、無毒といってもよい物質です。食用とされる海藻や海産の二枚貝は、アルセノベタインのほかにヒ素糖といわれる毒性が極めて少ないものであることが、多くの研究者により解明されました。また、各種有機ヒ素化合物の摂取量も整理されました(注5)。

 魚介類や海藻を頻繁に食べても慢性ヒ素中毒を発症しないのは、毒性が低いヒ素化合物として含まれていることによると考えられています。

有機水銀化合物

 有機水銀化合物は他の金属と異なり大変気になる物質です。水俣病の原因物質といえば想像できる人が多いと思います。いわゆる水俣病は、昭和28年(1953年)頃から始まったとされますが、昭和31年に初めて報告されました。水俣病は、言語障害、歩行障害、振戦、視力・聴力障害、精神などの障害が主な症状です。原因は、付近の工場がアセトアルデヒド製造工程で触媒として使用した無機水銀から副次的に生成するメチル水銀を垂れ流してしまったことでした。直接の原因はメチル水銀に高濃度に汚染された魚介類であることが解明されました。さらに昭和40年に新潟県の阿賀野川流域に発生した同じ症状が報告され、第二水俣病あるいは新潟水俣病として呼ばれています(注6、7)。

西島基弘/実践女子大学名誉教授

西島基弘/実践女子大学名誉教授

実践女子大学名誉教授。薬学博士。1963年東京薬科大学卒業後、東京都立衛生研究所(現:東京都健康・安全研究センター)に入所。38年間、「食の安全」の最前線で調査・研究を行う。同生活科学部長を経て、実践女子大学教授に。日本食品衛生学会会長、日本食品化学学会会長、厚生労働省薬事・食品衛生審議会添加物部会委員などの公職を歴任。食品添加物や残留農業など、食品における化学物質研究の第一人者として活躍している

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