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「若者の間で平成カルチャーがブーム」は錯覚?Z世代が新しく感じる「平成」とは

文=真島加代/清談社
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「写ルンです」の初期の製品群(「Wikipedia」より)
「写ルンです」の初期の製品群(「Wikipedia」より)

平成カルチャー”と聞くと、あなたは何を思い浮かべるだろうか。並んでも買えなかった「たまごっち」や渋谷から全国に広がった「ルーズソックス」ブームなど、言葉を見ただけでノスタルジーを感じる読者もいるだろう。

 あれから20年以上が経った今、どういうわけか、1996年以降に生まれた「Z世代」の間で、1990年代後半から2000年代前半にかけての平成カルチャーが注目されているらしい。

 実際、SNSでは現役女子高生がルーズソックスを履いてディズニーランドに行く様子が投稿され、「Z世代が選ぶ2021年下半期トレンドランキング」の「流行ったモノ・コト」7位に使い捨てカメラの「写ルンです」がランクインしている。なぜ今、Z世代に平成カルチャーが受け入れられているのか。平成のガールズカルチャー情報をSNSで発信しているTajimaxさんに話を聞いた。

令和への改元で平成カルチャーがブームに?

 若者たちが平成カルチャーに触れるきっかけとなったのは「2019年の平成から令和への改元だった」とTajimaxさん。

「当時は『平成を偲ぶ』という形で日本中が盛り上がっていましたよね。加えて、平成のギャルファッションを牽引した『SHIBUYA109』のリニューアルや、翌2020年には平成の歌姫・浜崎あゆみの自伝的ドラマ『M』も話題になりました。直近でも、2005年と現代が舞台のマンガ『東京卍リベンジャーズ』が若い人の間でヒットし、Z世代が平成カルチャーを目にする機会が増えたのも大きいです」(Tajimaxさん)

 もちろん、デジタルネイティブのZ世代と切っても切れないSNSの存在も、平成カルチャー人気と深く関わっている。

「デジタルネイティブのZ世代は“発信欲”が強く、SNSでバズるネタにも敏感です。たびたびトレンドに上がる平成モノをバズるネタと認識し、投稿しています。また、これは年代問わずですが、自分より上の世代のアイテムを持っていたり、昔のアニメや映画、音楽の知識があったりすると、上の世代とコミュニケーションも取りやすい。また、今までに知り得なかった知識が満たされるうれしさや新鮮さもあって、平成カルチャーを追っている人も多いですね」(同)

 Z世代が平成カルチャーに惹かれる理由は、それだけではない。1990~2000年代前半に青春を過ごしたミレニアル世代とZ世代の価値観には、共通点があるという。

「幼い頃からSNSが身近にある彼らは、自分の個性を表現するのも得意です。そして、1990年代後半、2000年代前半もまた、個性を重視する時代でした。ファッションを例にすると、当時はギャル系、原宿系など、一人ひとりが系統に属して、自分らしさを表現していたんです。所属意識は高いですが、“他人と同じものを身に着けたい”“目立ちたくない”という同調圧力ではなく、集団の中でも個性を意識する子が多くいました。私の肌感覚ですが、Z世代とミレニアル世代前半は、個性に対する価値観が少なからず近い印象があります」(同)

 個性重視のZ世代を象徴するアイコンが、あらゆるメディアで活躍するフワちゃんやkemioなどの存在だ。派手なビジュアルもさることながら、この2人には「ギャル魂を持っている」という共通点もあるという。

「ミレニアル世代前半のギャルたちは、我が道を行く強さを持っていました。そんなギャルの強さに憧れるZ世代も少なくないです。ファッションなどの表層的な面だけでなく、当時の価値観が再び巡ってきている可能性が高いです」(同)

現在の平成カルチャーの流行は錯覚だった?

 Z世代の感覚とマッチして訪れた平成カルチャーブームだが、Tajimaxさんによると、すでに下火になっているという。

「確かに、今も定期的にツイッターのトレンドに上がったり、ニュース番組で平成カルチャーの特集が組まれたりしているので、“流行している”という錯覚に陥るかもしれません。ただ、平成カルチャーはSNSでネタとして消費されるケースがほとんどで、2019年あたりのように、SNSだけでなくリアルな街中でも流行しているとは、少し言い難い状況です。この2年ほどは1990年代後半や2000年代前半に流行ったアパレルブランドが復刻アイテムを展開していますが、SNSで話題にはなるものの、実際の売り上げにつながっているかは少々疑問に思います」(同)

 苦戦している理由のひとつが、価格設定にある。GUなどファストファッションに親しんでいるZ世代にとって、1990年代後半や2000年代に席巻したブランドはやや高額な部類に入り、なかなか購入には至らないという。また、当時を懐かしむアラサー・アラフォー世代が“SNSのネタ”として購入するには、3000円以上の商品はハードルが高いといえる。

「これらの懸念点をクリアしているのが、3COINSが展開する“コラボ商品”です。たとえば、2020年と2021年に行われたマンガ家・矢沢あい先生の人気作『ご近所物語』や『天使なんかじゃない』とのコラボ。『天ない』のような有名作品はミレニアル世代だけでなくZ世代も読んでいる可能性が高く、幅広い層に記憶のストックがあります。しかも、ほとんどの商品が300円前後なので、購入しやすいですよね」(同)

 実際、3COINSの矢沢あいコラボ商品は売り切れが続出し、入手困難だったアイテムも多い。適度な価格設定とコンテンツ選びが成功につながった事例だという。

 そのほかの好例としてTajimaxさんが挙げたのは、韓国で人気の「ニュートロ(Newtro)」というトレンドだ。ニュートロは「New(新しさ)」と「Retro(過去)」をかけ合わせた韓国発の造語。もともとは1980年代に日本で流行したシティポップの曲調をK-POPに取り入れる音楽シーンのムーブメントだったが、現在はファッションや平面デザインにも波及しているという。

「ニュートロファッションのイメージは、BTSやBLACKPINKなどK-POPアイドルのファッションです。ロングブーツやミニスカートなど1990年代、2000年代の日本で流行していたアイテムを使いつつも、現代のポップさも感じられるのが特徴ですね」(同)

 今では日本のZ世代もニュートロファッションを楽しみ始めており、いわば逆輸入に近い状況になっているそうだ。

「平成」を古く扱いすぎるメディアに賛否両論も

 平成カルチャーに新たな解釈を加えたニュートロが日本で生まれなかった背景について、Tajimaxさんはこう分析する。

「日本人特有の“元号コンプレックス”が障壁になっている可能性が高いです。元号は現在、世界中で日本だけに存在する文化で、私たちは時代ごとのカルチャーを元号でカテゴライズする傾向があります。そうすると、1990年代後半、2000年代前半を指した平成カルチャーが『若者の間で流行っている』という話題に対して、Z世代と同じ“平成”を過ごしたミレニアル世代は、いきなりバーン! と、メディアやZ世代に『世代差』を突きつけられることに抵抗を感じて、議論になってしまう。日本はなかなか元号の枠から抜け出せないため、過去のカルチャーを生かしきれないのかもしれません」(同)

 実際、これまでも、メディアが「平成」を古く扱いすぎるたびに賛否両論が巻き起こった。日本は元号に対するこだわりが強く、フラットな形で過去の流行を生かしにくい土壌のようだ。

「一方のニュートロは、国や世代を超えてカルチャーをミックスしたテイスト。元号を気にせず、日本を俯瞰して咀嚼できる海外の方が平成カルチャーの良いところを取り入れられる印象です。何より、年代に縛られないニュートロの感覚自体がZ世代の価値観に合っているので、人気が出るのもうなずけます」(同)

 こうした現状から、そろそろメディアが提示したような「往年の平成カルチャーのブーム」は落ち着いてくるのではないかと、Tajimaxさんは予想する。

「アパレル業界では2YKファッションなど、2000年前後のファッションも注目されていますが、個人的に注目しているのは、ヒップホップカルチャー。もともと音楽のヒップホップは人気が高いジャンルですが、最近はサブスクや配信のチャートでも上位を占めていますよね。それに伴い、2000年代前半のようなB-ガールファッションも復活したらおもしろいなあと思っています。また、ヒップホップカルチャーが生んだ『Chill(くつろぐ)』というスラング英語がZ世代の間で共通言語になっているのも象徴的。ヒップホップカルチャーが新たな価値観として根付きつつあるので、目が離せません」(同)

流行は繰り返す」と一口に言っても、その流行には、ファッションや音楽、価値観など多様な要素が含まれる。今後、若者のトレンドがどのように変貌していくのか、注目するのも一興かもしれない。

(文=真島加代/清談社)

●Tajimax
90年代〜00年代の平成ガールズカルチャー情報をSNSやnoteで発信。Twitterアカウント

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清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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