日本では1990年代生まれが「ゆとり世代」「さとり世代」などと括られているが、世界的には2010~20年代に社会進出をする若者のことを「Z世代」と呼ぶ動きがある。彼らは小さな頃からスマホやSNSを使いこなすデジタルネイティブ世代であり、それゆえアナログ世代との軋轢を生みやすい。
そんなZ世代の生態や特徴、接し方などを『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社)の著者でマーケティングアナリストの原田曜平氏に聞いた。
Z世代の特徴は「チル」と「ミー」
さまざまなメディアで取り上げられる「Z世代」というワード。これは、だいたい現在10代前半~25歳くらいまでの世代を指している。なぜ「Z」なのかというと、欧米では彼らよりも上の世代が「ジェネレーションX」(1960年初頭~80年頃生まれ)、「ジェネレーションY」(80年代序盤~2000年代序盤生まれ)と呼ばれていたため、その後に続く“最後の世代”ということで「ジェネレーションZ」と呼ばれているのだ。
Z世代が欧米で注目されるのは、人口ボリュームが他の世代よりも多いためだ。そのため、これからの消費の主役と目されており、企業は彼らの生態や特徴を分析している。少子化の日本においても、将来的にシニア層が消費活動をしなくなる(できなくなる)ことから、Z世代に注目が集まっている。また、企業にとってZ世代は顧客としてだけでなく、貴重な働き手にもなる存在だ。
若者研究としてZ世代と関わってきた原田氏は、彼らの特徴をこう語る。
「Z世代の価値観の最大の特徴が、『まったりする』ことを意味する『Chill(チル)』を重要視していることです。チルはマイペースに居心地よく過ごす、いわゆる自分時間を楽しむこと。コロナ禍以前は超売り手市場でバイトや就職も競争が少ない環境であったこと、働き方改革やワークライフバランスが浸透したこと、などが影響しているでしょう」(原田氏)
Z世代の若者は「ネフリでチルってます(ネットフリックスを見てまったりしている)」という感じで、チルという言葉を使う。自分のプロフィールを登録することで企業からのスカウトやオファーが届く「逆求人サイト」の誕生などもあり、比較的働き口に困らない環境で育った彼らにとっては、自分の時間を優先することが大切だという価値観が根付いているようだ。
「もうひとつの大きな特徴は『ミー意識』です。ゆとり世代で中心だったSNSはミクシィやフェイスブックですが、これらは知り合いを見つけて、つながり、交流するものでした。しかし、Z世代で中心のSNSはツイッターやインスタグラムであり、これらは自分で発信したり、発信している人を見たりすることがメインです。幼い頃からそうした発信型のSNSに触れてきた彼らは、自己承認欲求や発信欲求が他の世代に比べて高い。このような過剰な自意識を、私は『ミー意識』と呼んでいます」(同)
また、ガラケー第一世代のゆとり世代は、メールやミクシィ、「前略プロフィール」など携帯電話を主な人間関係ツールとして使用していた結果、同調圧力が強くなった。対して、スマホ第一世代のZ世代は人間関係ツール以外の多様な使い方を習得しており、SNSでもブロック機能や鍵アカウント設定などで嫌な人を排除できる居心地の良さを保てるようになった。
その結果、同調圧力はゆとり世代ほど苛烈ではなくなり、周りの顔をうかがうよりも、自己ブランディングのために何を発信するかに意識が向けられているのだ。
Z世代にとって「仕事」や「上司」とは?
では、「チル」と「ミー」を大切にするZ世代とは、どのように接すればいいのだろうか。
「根本的に、昭和の発想を捨てて付き合わないといけません。中年になると、若者は飲みに連れて行って話せばついてきてくれるし、楽しさや成長を感じられる仕事を与えれば夢中でやってくれる、と思いがちです。しかし、どんなに愛情を注いでも、彼らにとってはプライベートに勝る仕事も上司も存在しません。良くも悪くも『世界の中心に自分がいる』という感覚が強いのです」(同)
「若者は仕事を通じて成長したいはず」という固定観念を持った中年の上司は、つい仕事を通じた自己実現の重要性を説きがちだ。しかし、Z世代はマイペースな上に、時代背景的に景気停滞期しか知らないため、そもそも「成長」という言葉は響かないという。
「彼らは、おだてても、叱っても、自分のプライベートの時間を侵す量の仕事はしてくれません。僕は、Z世代と接するときは『あなたの能力的に、この時間でこの課題を10個できますね?』というふうに、適正な量のタスクを与えます。その上で相手も合意して仕事を進め、その過程で適宜アドバイスを行って、質を高めていくのがいいでしょう。どちらかといえば、欧米人的な契約社会に近い仕事の進め方ですね」(同)
かつての根性論や「遊びと仕事の境目はない」という価値観は、もはや受け入れられない。ただ、どんな仕事でも、量をこなしていけば必然的に質が上がっていくのも事実だ。原田氏は、仕事人としての成長スピードもかつてとは違ってくるだろう、と見る。
「たとえば、睡眠時間を削ってがむしゃらに仕事をして3カ月で成長できたことが、3年かけて成長を遂げるというスピード感になります。人手不足なので辞められては困るため、成長のスピード感が違うということにも、上司は慣れていかなければならないでしょう」(同)
一方で、多くのZ世代はかつての若者たちよりも真面目だと、原田氏は指摘する。
「昔の方がムチャクチャな若者や部下は多かった気がします。その頃は、新人は大きなミスをやらかして、上司や先輩にパワハラ気味に叱られて、自分の未熟さを知って大人になる、というのがロールモデルでした。一方、今はミスも少ないし、反抗もしない。上司がいないからサボるなどという発想はなく、与えられたタスクはしっかりやります。ただし、それ以上のことはやりませんが」(同)
Z世代の消費行動と「丁寧な暮らし」の実態
そんなZ世代は、ゆとり世代よりは消費意欲が高いと言われる。インスタやユーチューブで多くのトレンドを目にする機会が増え、消費意欲をかき立てられるからだという。
「Z世代はゆとり世代よりもアクティブだと見られていますが、実際は“プチ”アクティブ程度。たとえば、いいクルマに憧れてモーターショーに行くことはありますが、そこで写真を撮っておしまいで、手に入れようとまでは思わない。どこまでいっても“プチ”なので、社会に影響を及ぼすには至りません」(同)
また、Z世代は健康意識や環境問題への関心が高いといわれる。実際、SNSでは「丁寧な暮らし」というハッシュタグが流行っており、自分のきめ細かい丁寧な生活を投稿している人も多い。
「ただ、実際に若者と接すると、無印良品で買った商品を食べたり使ったりしているだけの人も多く、『浅い』と感じることがあります。『映画好き』を自称する若者でも、流行の映画を数本見ている程度だったり。上の世代が気をつけないといけないのは、『俺が若いときは1日6本見てた』『本当に好きなら、こうすべき』などと価値観を押し付けないこと。今はSNSやネットの影響で趣味嗜好が細分化し、LINEですぐに誰かとつながれるため、自分の世界に閉じこもったり、ひとつのことにのめり込んだりするのは、状況的にやりづらいのです」(同)
浅く、狭く、マイペースにチルして自分の時間を確保することが、Z世代にとって最上位の概念なのである。
「本来であれば、社会人になってからも努力を続けて、ある程度の権限を持たないとマイペースには過ごせません。でも、一人っ子も多いZ世代は家族から大事にされ、先生も先輩も優しかったし、SNSではみんなが『いいね!』してくれるので“スター気取り”の人が多い。しかも、人手不足で企業が学生に媚びてくるのですから、居心地よくマイペースに生きられるはずだと思っています。ただ、このような世代もやがて社会の主役を担っていくわけですから、上の世代は見守り、育成するという社会的責任を負っているのです」(同)
世界的に見ても深刻な少子化に陥っている日本。どんなに価値観がズレようとも、大人たちはZ世代と向き合っていかなくてはならないのだ。
(文=沼澤典史/清談社)
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