お笑いコンビ「千鳥」のノブが「右椎骨動脈解離(みぎついこつどうみゃくかいり)」のため入院したと所属事務所の吉本興業が発表し、ファンをはじめ各方面から心配の声が上がっている。
ノブは7月27日に首の痛みを感じ、痛みが続いたため8月2日に病院を受診。右椎骨動脈解離と診断され、そのまま入院することなった。吉本興業の発表では、検査の結果次第では数日後に退院できる見込みだが、1カ月程度の安静が必要だという。
右椎骨動脈解離という聞き慣れない病名から“重病”というイメージを抱いた人も多いだろう。そのイメージに反して、実は誰もがかかる可能性がある疾患だという。くぼたクリニック松戸五香院長の窪田徹矢医師に、右椎骨動脈解離について話を聞いた。
「首から脳に血液を送る動脈血管は左右に2対、走っています。首の前側にあるのが頚動脈、首の骨の中にあるのが椎骨動脈です。報道の通りであれば、ノブさんは右の椎骨動脈に解離が起きた状態です」(窪田医師)
血管の解離という言葉を聞いても、ほとんどの人は詳しくその状態をイメージすることは難しいだろう。
「動脈の壁は三層構造になっており、内側から内膜、中膜、外膜と呼びます。動脈解離は、血管の内膜になんらかの原因で傷がつき、そこから血管の壁の中に血液が入り込み、血管が裂けていく状態をいいます。軽症の場合には自然治癒することもありますが、症状が進めば脳梗塞やくも膜下出血を起こし、命を脅かすこともあります」(同)
代表的な症状は、首の痛みや激しい頭痛であり、単なる「寝違え」や「肩こり」と自己判断し、自然治癒しているケースも少なくない。一方で緊急手術を要するケースもあり、頭痛や首の痛みを放置しないことが重要である。
「40代の男性に多く発症するといわれますが、働き盛りの年代ですので、疲労からくると考えて放置してしまう方も多いようです。今まで感じたことがないような首や頭の痛みがあれば、早めに医療機関を受診してほしいと思います」(同)
椎骨動脈解離の原因
窪田医師によると、誰もが日常的にやりがちな行動が首の血管を傷つける可能性があるため、注意が必要だという。
「原因が不明なケースも多くありますが、整体などで首を激しく捻ったり、スポーツ、交通事故などによって血管が衝撃を受けることが原因となるケースもあります」(同)
最近では、整体で首を捻り、勢いよく「ポキっ」と音を鳴らす動画などが散見されるが、非常に危険だと窪田医師は指摘する。
「整体で首の血管を傷つけるリスクがあると思います。また、ご自身で首を回し、ポキポキと音を立てる人がいますが、その行動も危険ですので、そういったクセをお持ちの方は、首を回さないように心がけてほしいと思います」(同)
椎骨動脈解離の治療
前述したように、椎骨動脈解離は軽症の場合もあり、治療をしなくとも自然治癒するケースもあるが、解離の程度を知ることが重要であり、頭部CT、頭部MRI検査のほか、必要があれば、カテーテルを使用した脳血管撮影を行い、血管の壁が裂けている場所や程度を正確に調べ、早急な治療を開始する。
「一般的に軽症の場合には、血管に負担がかからないように血圧のコントロールを行い、経過観察を行い、自然治癒を待ちます。しかし、解離が大きく、血管が裂け、脳梗塞やくも膜下出血を起こしている場合には、手術を行います」(同)
現時点では、ノブは手術などは行わず、数日で退院の見込みと発表されており、命にかかわるような深刻な状態ではないと推測できる。
しかし、ノブは9年前の2013年に激しい頭痛を訴え、未破裂左椎骨動脈解離のため入院していることから、今後も椎骨動脈解離が再発する可能性もある。日頃の体調管理が必要だろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)