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GMOが社内で脱マスク、マスクで業務効率低下は本当?パーテーションは非合理的

文=編集部、協力=上昌広/血液内科医、医療ガバナンス研究所理事長
GMOが社内で脱マスク、マスクで業務効率低下は本当?パーテーションは非合理的の画像1
GMOインターネットグループのHPより

 GMOインターネットグループは9月20日に「新型コロナウイルス感染対策緩和宣言」を公表し、社外の人が出入りする共有スペースや社外を除き、オフィス内での社員のマスク着用義務を撤廃すると発表。同社の熊谷正寿会長兼社長は同日、Twitter上に、約6割の社員がパーテーションが設置されている場合はマスク着用は「不要」「やや不要」と回答したという社内調査の結果を引用しつつ、次のように投稿し、これが「脱マスク」だとして話題を呼んだ。

<人類は誕生以来互いに顔を見ながらコミニュケーションを取ってきた。GMOインターネットグループは、本日より社内のマスク着用は「任意」に変更しました>

<在宅勤務とマスクを続けていたらビジネスでは勝てません。パーティーション、消毒、検温などはそのままです>

 欧米など海外では公共の場でもマスクを着用しない動きが広まっているというニュースを目にする機会も多いが、日本では屋外やオフィス内、交通機関、各種施設内ではほとんどの人がマスクを着用しているのが現実。政府は現在、屋外については「原則不要」としているが、屋内でのマスク着用についても岸田文雄首相は6日に参院代表質問への答弁で「科学的な知見に基づき、世界と歩調を合わせた取り組みを進める」と述べるなど、基準の見直しに着手している。

 そうしたなかでのGMOの思い切った決断をめぐってはさまざまな意見が出ているが、大手IT企業社員はいう。

「2年前にコロナが広がり大慌てで在宅勤務に切り替わった直後には、みんな混乱して大幅に業務効率が落ちたものの、その後は徐々に慣れて、通勤の時間や煩わしさがなくなったことも加わり、ウチの社内でも“結構いいじゃん”という空気が広まった。だが、しばらくすると“やはり対面のコミュニケーションのほうが効率良いよね”という風潮になり、最近では出社が当たり前という状況に逆戻りしている企業は結構多い。

 なので在宅勤務で効率が落ちたかなという感覚はあるが、マスク着用によってコミュニケーションが低下したり業務効率が低下したという実感は正直あまりない。そこは業種や職種、企業ごとの社員の年齢構成や社風によるのでは」

 また、別のIT企業社員はいう。

「ウチは以前から社内でのやりとりもチャットツールがメインで、わいわい打合せで議論するという文化は薄く、社員がマスクをしていても、していなくても、あまり大差はない。一方、クリエイティブ系の業種や多くの関係者の意見をすり合わせる必要がある労働集約型っぽい業種の人からは、マスクで表情が見えにくいと何かと支障が生じるという話は聞く。

 もしくは、たとえばコロナ禍で業績が落ちているような企業だと、社員はそう感じてはいなくても、経営者が“マスク着用でコミュニケーション不足が起きているせいで業績が悪化している”と思い込むケースはあるかもしれない」

 今回のGMOの施策で気になるのは、オフィス内でマスクを着用しない人が増えることでコロナ感染リスクが高まってしまわないのかという点だろう。前述のとおり同社は引き続きパーテーション設置、消毒、検温などの対策は続けるとしているが、血液内科医で元東京大学医科学研究所特任教授の特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏に解説してもらった。

屋内でのマスク装着、効果は限定的

 マスク着用の必要性について、ようやく日本でも議論が始まった。その際、何を重視すべきか。それは科学的合理性だ。

 実は、マスクがコロナ感染を予防する効果は低い。今年2月、韓国のサムスンメディカルセンターの医師たちがコロナに対するマスクの効果を検証したメタ解析を「医療ウイルス学」誌で発表した。メタ解析とは、複数の臨床試験をまとめて解析することだ。臨床試験は特定の集団に介入するため、環境や対象を変えれば結果が再現されるとは限らない。異なる環境で実施された複数の臨床研究をまとめて解析してはじめて、その結果が一般化できる。臨床医学の世界では、メタ解析の結果は「最高レベルのエビデンス」と評価される。

 では、韓国の研究はどんな結果だったのだろうか。彼らは新型コロナに加え、同じコロナ属の重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスに対するマスクの予防効果を併せて検証した。その際、医療従事者が着用するN95という特殊なマスクと、一般人が着用するサージカルマスクについて別個に解析した。

 まずは医療従事者がN95マスクを着用した場合の効果だ。報告されている14の臨床研究をまとめると、感染リスクを71%も減らしていた。極めて有効だ。ただ、N95マスクは着用すれば息が苦しくなり、一般人が日常的に着用するのは難しい。

 サージカルマスクはどうか。医療従事者を対象とした12の臨床試験をまとめると31%、一般人を対象とした2つの臨床試験をまとめると22%感染のリスクを減らしていた。しかしながら、両方とも、その差は統計的に有意ではなかった。これは、研究で示された有効性は単なる偶然でも説明が可能で、医学的には効果は証明されていないことを意味する。

 ちなみに、この結果はインフルエンザに対するマスクの有効性を検証したメタ解析の結果とも同じだ。先行研究とも一致し、今回の研究結果は信頼できそうだ。以上の事実は、一般人がマスクをつけた場合の有効性は医学的に証明されておらず、もしあったとしても2割程度ということになる。

 コロナの感染経路はエアロゾルによる空気感染だ。屋外で感染することはまずなく、感染はもっぱら屋内で起こる。この結果は、屋内でマスクを装着しても、効果は限定的ということを意味する。だから、マスクは着けるべきでないと、私は主張するつもりはない。ただ、現在の医学的エビデンスに基づけば、嫌がる人に装着を無理強いする必要はないし、マスクを装着していない人が周囲にいても、そこまで気にする必要はないということはできる。

 ワクチン接種や実際の感染による免疫獲得が進んだ現在、大流行の最中はともかく、現在のような収束期にはマスクの有用性は低いといっていい。マスクの着用については、科学的な議論が必要である。

遮蔽物の使用、コロナ感染のリスクを高める恐れ

 余談だが、GMOはオフィスでのパーテーション設置や消毒などの対策は続けながら、共有スペースや社外を除いてマスク着用を個人の自由としたとのことだが、これは合理的ではない。

 米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが、昨年4月29日に米「サイエンス」誌に発表した研究が興味深い。彼らは、2020年11月24日~12月23日、および昨年1月11日~2月10日の間にフェイスブックを通じて収集した214万2887人のデータを分析し、学校などでの遮蔽物の利用が感染リスクを高めていたと結論した。遮蔽物の使用がコロナ感染のリスクを高めることは、いまや医学界のコンセンサスといってもいい。昨年8月27日に「サイエンス」誌に掲載された総説「呼吸器ウイルスの空気感染」には、「屋内空間での咳やくしゃみからの飛沫を遮断するために設置された物理的なパーテーションは、気流を妨げ、呼吸ゾーンでより高濃度のエアロゾルをトラップする可能性があり、コロナの伝播を増加させることが示されている」と、前出の米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームの研究などを引用しながら、論じられている。

「サイエンス」誌は世界最高峰の科学誌だ。世界の専門家は、その論調を尊重する。ところが、日本は違う。世界の研究者が感染リスクを高めると警鐘を鳴らしている行為を、そのリスクについて言及することなく、政府が推奨しているのだから不誠実というしかない。

(文=編集部、協力=上昌広/血液内科医、医療ガバナンス研究所理事長)

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