医療機器卸会社の営業として病院や開業医を回る40代男性のAさんは仕事柄、医者との付き合いが多い。車で営業しているため運動不足になり、肥満と高血圧を健康診断で指摘された。そこで1年前から“名医”のもとで治療を受けているという。
「『脂肪を落とす』とテレビCMで宣伝されている市販薬と同じ成分の薬はもちろん、向精神薬や睡眠薬を欲しいだけ処方してくれる開業医は少なくない。なぜ多くの人がドラッグストアに通い、市販薬を買っているのか」と、コスト面から見て開業医にメリットがあることをAさんは強調する。そこで、Aさんのかかりつけ医院の明細表と市販薬の値段を比較してみた。
●保険診療を使えば市販薬の3の1の価格で薬が手に入る
例えば、Aさんは「脂肪を落とす」「肥満症を改善する」として市販薬でベストセラーになっている漢方薬のエキスを用いた「防風通聖散」を処方されている。市販薬では「ナイシトール」(小林製薬)、「和漢箋(わかんせん)」(ロート製薬)、「ツムラ漢方 防風通聖散」(ツムラ)といった商品名で販売されており、ドラッグストアでは1カ月分が3100~4000円という値段だ。一方、処方薬では1カ月分で196点(1点10円)。調剤料や診察代を入れても健康保険が適用されて3割負担で1250円と、およそ3分の1の値段で同じ成分の薬を入手できる。
Aさんは「その医師は毎回『ドラッグストアだと何千円もするものなんですよ』と言いながら、嬉しそうに処方してくれる」と語り、診療のたびに「ほかにもどこか悪いところはないですか?」と治療をしたがる。そこでAさんは「眠れない」「憂鬱だ」「腰が痛い」などと少しでも該当しそうな症状を訴え、さまざまな処方薬を手に入れて、富山の置き薬のように常備薬として保管しているという。「歌手のASKAの薬物事件の影響もあって、『アンナカ(安息香酸ナトリウムカフェイン)が欲しい』と求めたら断られたが、『もっと効く薬がある』と別の向精神薬を処方された」と述べ、唯一アンナカだけは入手に失敗したようだ。
こうした医師の目的は明かに金儲けだ。仕事柄、開業医の懐具合にも詳しいAさんは特徴を教えてくれた。
(1)看板の標榜診療科が多い…診療科目を手広く見せかけ、多くの患者を受け入れようとしている。
(2)薬を院内処方する…医薬分業が進む中でも、調剤料で儲けようとしている。
(3)待合室が空いている…患者の希望を率直に聞いてくれるので、診察時間が短い。
(4)流行の疾病に手を出したがる…スポーツ障害、睡眠時無呼吸症候群、メニエール症などキャッチーな疾病は金儲けにつながりやすい。
(5)紹介状を書かない…大病院での精密検査が必要でも、患者を手放そうとしない。
保険診療であれば、こうした薬の過剰な処方は明らかに医療費の無駄遣い。褒められた行為ではない上、薬への依存度も過剰になるため、厚生労働省では、複数の薬を処方された患者を対象に、安全に薬を減らす方法を探る臨床試験なども行っている。
ちなみに、8種類以上の薬の服用による副作用はまったく予測不可能だといわれる。薬が安く手に入っても健康を害し命を落としては本末転倒。それでもあなたは“名医”にすがりますか?
(文=チーム・ヘルスプレス)