認知症が原因で行方不明になったと警察に届け出があったのは、2012年に9607人、13年は1万322人にもなる。そのうちの多くは無事に保護されているが、12年に359人、13年には388人の死亡が確認された。また、2年間の受理分のうち、今年の4月末時点で行方不明のままも258人に上る。
さらに、13年に警察が保護したが身元がわからずに、自治体に引き渡したのは157人。そして、今年5月末時点でまだ13人の身元が判明していない。
この問題は、今春NHK が放送した『“認知症800万人”時代』で大きくクローズアップされ、各報道機関も一斉に取り上げた。それに対して行政側も動きを見せる。6月5日、警察庁が行方不明者の早期発見や身元確認などの対策を取るよう都道府県警に通達。8月5日には厚生労働省がホームページのトップに専用サイトを設けるなど、少しずつだが前進も見られるのだ。
●捜索を妨げる個人情報の壁
「行方のわからない認知症高齢者等をお探しの方へ」というサイトからは、保護された身元不明高齢者の情報を公開する各都道府県のページにアクセスできるようになっている。10月1日現在で、リンクが張られているのは千葉県や静岡県、兵庫県など8県と山口県萩市だけでまだまだ少ない。厚生労働省の呼びかけに応えて、準備を進めている自治体がまだ多くあるといいのだが。
一方で、身元不明の高齢者をめぐっては、個人情報の取り扱いに自治体ごとで差があることなどから、情報の公開や共有がうまく進まないという問題がある。
高齢者が保護されていると聞いた家族が自治体に問い合わせても、顔や身体的特徴は個人情報で出せないと断られることがあるという。本人の同意を得れば公表できる規定であっても、認知症の人の同意は法律的に有効なのか判断が難しい。今のところ、ほとんどの自治体は個人情報を理由に保護されている人の顔写真や身体的特徴などを公表していない。
最近も、埼玉県狭山市で保護された男性(名前を言えるにもかかわらず、18年間も身元不明のままだった)が、テレビ放送された直後に身元判明したケースがあった。直接的な原因は警察の資料照合ミスだったというが、こうした例を見ると、自治体はむしろ積極的に情報を発信すべきだろう。