モバイル業界では世界最大となる見本市「Mobile World Congress 2016」が、スペイン・バルセロナで開催された。今年のテーマは「MOBILE IS EVERYTHING」。人だけでなく、あらゆるモノがモバイルになっていくという意味の言葉で、それを支えるインフラである「5G」が大きくフィーチャーされたイベントだった。
また、韓国サムスン、同LG、ソニーといった主要メーカーがフラッグシップモデルを発表したのと同時に、多数の周辺機器も発表。スマートフォン(スマホ)をハブにして、さまざまなデバイスが広がっていくトレンドを垣間見せた。
MWCで注目されていた、5Gとはどのようなものか。日本では、NTTドコモなどが中心になり、2020年の商用化を目指している。方式をガラッと変え、3Gから4G(LTE、LTE Advanced)へと進化したときとは異なり、5Gの接続はあくまでLTEをベースにしている。今のLTEからシームレスに5Gへと切り替えていくというのが、業界全体が描いているシナリオだ。
まだ仕様が完全には固まっていないが、具体的には、より高い周波数を使ったり、アンテナの数を増やしたりといった方法で、高速化と低遅延化を目指している。速度としては100Gbps以上、遅延は0.1ms以下が目標として掲げられている。MWCでも、ここに向けた取り組みが多く見られた。たとえば、スウェーデンの通信機器ベンダー、エリクソンは、ドコモと共同で行っている実験成果を披露。実験機で、20Gbps以上の速度を記録する様子が確認できた。
ドコモのブースにも、ノキアと共同で行っている実験が展示されていた。こちらは、70GHz帯という非常に高い周波数帯を使ったもの。これだけ周波数が高いと、電波が飛びづらくなるため、一点に集中させる「ビームフォーミング」と呼ばれる技術を活用する。端末側が動くと、アンテナがそれに追従。こちらも、Gbps単位での速度を実現できている。ほかにも、中国ファーウェイなどの通信ベンダーや各国のキャリアが、それぞれ5Gの新技術を出展。2020年に向け、徐々にその姿が具体化している様子がうかがえた。
5Gが求められる理由はIoT
一方で、これだけの速度を、どのように生かすのかという向きもあるだろう。スマホやタブレットだけなら、今のLTEでも十分高速でネットを快適に見ることはできる。ただし、これは、あくまでもデバイスが今のままならという話だ。IoT(モノのインターネット)というキーワードが語られるようになったが、この先、ネットへつながるデバイスは飛躍的に増加していく。そのトラフィックを支えるためには、今の容量では不十分だ。5Gが求められている理由も、そこにある。
また、MWCでは、IoT向けの通信規格も話題を集めていた。IoTで利用されるデバイスは多種多様。ものによっては、乾電池を使って数年単位で動くことも求められる。こうした要求を満たすための仕様が、LTEの「カテゴリーM」や「NB-IoT」となる。前者はLTEの速度を1Mbps程度に絞ったもの。後者はより少ない帯域を使い、100Kbps程度まで速度を落とす代わりに、バッテリー寿命を大幅に延ばす規格となる。
キャリア各社も高速化の動き
20年に向けた通信規格が具体化しつつあるMWCだったが、LTEは段階的に進化していく。まずは既存の方式を強化する方向で、1Gbps程度の速度を目指す方針だ。国内では、すでにドコモが、5Gを前に1Gbpsの通信を導入するロードマップを明かしている。MWCでは、クアルコムやエリクソンがこのデモを実施。同社のモデムチップ「X16 LTE」を搭載したデモ機で、1Gbpsに近い速度を出している様子を見ることができた。
1Gbpsを実現するには、まず3波のキャリアアグリゲーションを導入する。これは、3つの周波数を掛け合わせて利用する技術で、すでに商用化されており、ドコモの冬モデル「AQUOS ZETA」などが対応している。その上で、2つ分の周波数に対して、アンテナを倍増させた「4×4 MIMO」を導入し、変調方式も高度化する。もともと150Mbpsだった1つの周波数を倍増させ、300Mbpsにしたうえで、変調方式を変えて400Mbpsにする。それを2つ掛け合わせて800Mbpsを実現したうえで、変調方式だけを変えた電波を足し、合計で1Gbpsにするという計算だ。
こちらに関しては、5Gと異なり既存の技術の延長線上にあるため、20年を待たずとも導入が可能。すでにモデムチップも存在するため、あと1、2年もすれば、ユーザーが実際に利用できるようになるだろう。より直近では、ドコモが、6月にLTEを下り最大375Mbps、370Mbpsに高速化する予定だ。また、KDDIやソフトバンクも、3.5GHz帯を使ったTD-LTEを開始する。
このように、5Gに向け、モバイルの通信は段階的に進化していく。用途もスマホやタブレットにとどまらず、幅広いデバイスに広がっていく。今年のMWCは、その具体像やロードマップが、より明確になったイベントだったといえるだろう。