この数カ月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、多くの人が不要不急の外出を控える日々を過ごした。なかなか人に会えない生活が続くなかで、「ソーシャルギフト」という新しいスタイルの贈り物が売り上げを伸ばしたという。
住所を知らない相手の自宅にもギフトが贈れる上、家から出なくても発送が完了するソーシャルギフトは、アフターコロナの世界で定番のサービスとなるのだろうか。
幅広い使い方が可能なソーシャルギフトの魅力
コロナ禍で注目を集めているソーシャルギフトとは、SNSなどのソーシャルサービスを利用して相手に贈ることができるギフトのことで、欧米や韓国ではすでにスタンダートになっているという。メールアドレスやSNSのアカウントさえわかっていれば、ギフトの選定から発送までの全行程を、どこにいても、すぐに行える簡便さが特長だ。
「最近はSNSが普及した関係で、学生時代の友人とつながることもあれば、SNSを通じて知り合った人と親しくする機会も増えました。そういった相手に、わざわざ住所を聞かずに贈り物ができるのが、ソーシャルギフトの最大の特徴です」
そう話すのは、ECアナリストでネット通販コンシェルジュの遠藤奈美子氏だ。
「ソーシャルギフトは、思い立ったときにすぐ贈れるのも利点です。たとえば、急なお祝いや、記念日を忘れていた場合でも、ソーシャルギフトならすぐにプレゼントを贈ることができます。相手が現物を受け取るのは後日になりますが、お祝いや感謝の気持ちは時間を置かずに伝えられるのではないでしょうか」(遠藤氏)
さらに、ソーシャルギフトはちょっとした贈り物にも最適だ。
「ドリンク1杯やお菓子ひとつから贈れる少額のギフトが充実しているので、気軽に贈り物ができるのもソーシャルギフトならではといえます。ドリンクなどの飲食物は実店舗に足を運び、画面を提示することで受け取る『店舗受け取り型』の場合が多いですね。
ほかにも、受け取る相手がオンライン上で住所を入力することで相手の自宅に届く『配送型』のギフトや、映画配信サイトや音楽ダウンロードサイトのプリペイドカードといったオンラインサービスで使える『デジタル型』のギフトなど、形式はさまざまです。受け取り手がいくつかの商品から希望の商品をオンライン上で選択できる、カタログギフトのようなタイプもありますよ」(同)
贈る側はクレジットカードやスマートフォンで決済でき、支払いもオンライン上で完結する。ソーシャルギフトは、手間がかからず、スピード感もあり、幅広いシーンに対応できるのだ。
“巣ごもり消費”で個人の利用が急増
ソーシャルギフトサービスが日本に登場したのは2011年。以降、すさまじい勢いで成長し続けている。矢野経済研究所の調査によると、14年の国内市場規模は約82億円だったが、18年には約1167億円にまで増加し、4年間で14倍も成長しているのだ。23年度には約2492億円まで膨らむと予測されており、今後のさらなる成長が見込まれている。
「この成長を支えているのは、個人利用よりも法人利用です。法人利用では、社員の福利厚生や株主への優待、顧客へのギフトとして利用するケースが多いですね」(同)
ソーシャルギフトプラットフォームの大手である「giftee」を運営するギフティの20年12月期第1四半期決算情報を見てみると、売り上げの7割は法人向けサービス「giftee for Business」が占めている。
「とはいえ、『giftee』の会員数は前年同期比21.8%増の143万人と増えていますし、『Gift Pad』というプラットフォームでも、昨年は約33万5000件の注文があったといいます。業界全体で利用者数も注文社数も増加傾向にありますから、今後は個人利用の分野もさらに盛り上がっていくのではないでしょうか」(同)
ソーシャルギフトの個人利用を後押しするのが、新型コロナの影響だ。
「外出自粛要請が出て以降、家から出なくても買い物ができるネットショッピングやフリマアプリの利用率が上昇しています。ソーシャルギフトも、配送型やデジタル型であれば、贈る側も受け取る側も家にいながら配送から受け取りまでが完了するため、最適です」(同)
先ほど紹介した「giftee」では、新型コロナの感染拡大にともない、商品が自宅に届く配送型ギフト、オンラインサービスを利用できるデジタル型ギフトの販売が爆発的に増加した。また、新型コロナの流行時期は卒業や入学・入社のシーズンに当たっていた上、母の日もあった。高額なギフトを贈るシーンが増えたので、平均購入単価も上がっている。
「新型コロナの影響でソーシャルギフトを利用する人が増え、業界全体が、より多様なシーンに対応できるよう発展していくのでは、と考えられます。日本でソーシャルギフトサービスがスタートして10年近くがたとうとしていますが、開始直後に注目されて以降、話題性が下がってしまっていたのが正直なところです。コロナパニックを機に多くのプラットフォームが進化していけば、日本にもソーシャルギフトが定着していくかもしれませんね」(同)
「相手に受け取ってもらない」トラブルも
とはいえ、ソーシャルギフトサービスがより発展し、日常生活に定着していくためには、クリアすべき課題も多いと遠藤氏は指摘する。
「新型コロナの感染拡大を防ぐための外出自粛が業界全体の売り上げを後押ししているものの、まだまだ国内での認知度は低いでしょう。これは私の考えですが、ソーシャルギフトは『デジタルギフト』や『eギフト』など、さまざまな名称があり、人々の認知も分散してしまっている印象を受けます。業界が一丸となり呼び名を統一できたら、今以上に知名度が上がるのでは、と思います」(同)
また、アフターケアにも力を入れてほしい、と遠藤氏は話す。意外に多いトラブルが、贈った相手にギフトを受け取ってもらえないというケースだ。
「ソーシャルギフトは手軽とはいえ、ネットに不慣れな人からすると、どう操作して受け取ればいいのかわかりづらいもの。配送型の場合は個人情報の入力に抵抗がある人もいますし、店舗受け取り型の場合は受け取る側の自宅周辺に受け取り可能な店舗がないと受け取ってもらえません」(同)
ほかにも、ただのメッセージだと勘違いされてギフトであることを気づいてもらえず、受け取ってもらえないこともあるという。
「相手に受け取ってもらえなかった場合でも、贈った側に返金はされません。こうした課題が解決されていくと、より安心して使えるようになるので、返金保証制度が整うといいと思います」(同)
こうした懸念もあるため、「ソーシャルギフトを贈るなら、まずはカジュアルな贈り物からがいいでしょう」と遠藤氏は言う。
「『giftee』や『LINEギフト』は安価なギフトも多いですし、LINEのアカウントさえ知っていれば贈ることができるので、とても簡単です。メッセージも添えられるので、相手に『プレゼントだよ』ということも伝えられます。『Gift Pad』は6万点以上のアイテムが幅広い価格帯で揃っていて、あらゆるシーンで利用できるので、誕生日や出産祝いに向いていますね」(同)
ギフトのラインナップはもちろん、プラットフォームごとに用意されたお得なサービスも見逃せない。
「『LINEギフト』はギフトの支払いにLINEポイントを使うことができます。LINEポイントはLINEの各種サービスを利用することで貯められるので、知らずに貯まっている可能性もありますよ。また、『cotoco』は会員登録をすると、支払いに使えるポイントが貯められたり、メルマガ受信者限定のキャンペーンがあったりします。メルマガキャンペーンでは対象商品が最大50%オフになるなど割引率の大きいキャンペーンも多く、おすすめです」(同)
「LINEギフト」と「cotoco」は、自分自身にもギフトが贈れる。キャンペーン時に自分用にギフトを買い、その購入時のポイントを貯めておけば、誰かへの贈り物をお得に購入することもできるのだ。
仕事はテレワーク、学校の授業はオンラインと、コロナとの共生のために、あらゆる分野でリモート化が進み、物理的な距離も「ソーシャルディスタンス」を保つことが求められている。ソーシャルギフトサービスを活用することで、もっと気軽に贈り物をし合う文化が生まれ、心の距離も縮めることができるかもしれない。
(文=ますだポム子/清談社)