テレワークの導入など柔軟な働き方ができることや、コロナ禍でもITへの需要が高まっていることから、IT業界への転職希望者が増加傾向にある。そんななかで注目されたのが、プログラミングスクールだ。
その名の通り、IT業界で必要な技術やプログラミング言語について学ぶことができる学校のことで、受講期間や受講料はスクールによってさまざま。なかには60万円、70万円と受講料が高額なスクールや、転職できなければ受講料を返金する“転職保証”を謳うスクールも存在する。
しかし、SNSではプログラミングスクールに通ったにもかかわらず、望んでいたような企業や職種に就けなかったという嘆きの声も上がっている。はたしてIT業界への転職のためにプログラミングスクールを受講することは、有効な選択肢といえるのだろうか。20代に特化した転職エージェント「株式会社UZUZ」でキャリアアドバイザーを務める森川剛氏に話を聞いた。
教えることに特化していたプログラミングスクールの弱点
そもそも、プログラミングスクールはいつ頃から登場したのだろうか。
「スクールの数が増加し、名前がよく聞かれるようになったのはここ2、3年の出来事ですが、プログラミングスクール自体は4、5年ほど前から存在していました。当初は個人にIT業界への就職支援を行う役割はなく、企業が新人研修の代用として利用するような、単純にプログラミングを学ぶための場所だったんです。
あとから転職エージェントのような仕事が追加されましたが、就職先斡旋のノウハウがなかったので、多くのスクールでは営業部隊によって卒業生の就職先を開拓していますね。転職エージェントに企業の紹介を依頼するスクールや、ホームページの企業募集ページで『無料でもご紹介可能』と謳っていたスクールもあったので、当初からかなり卒業生たちの“出口”(就職先)開拓に苦戦していたのではないでしょうか」(森川氏)
もともと就職を支援するためのサービスではなかったために、さまざまなミスマッチが発生しているのだという。
「IT業界への転職希望者は、オシャレなオフィスや、テレワークでのびのびと働けるというIT業界のキラキライメージに惹かれた、文系未経験者が多くを占める傾向があります。結果として、そういった方々が希望するWEB系のシステム開発で使用されるJavaScriptやRubyなどのプログラミング言語を教えているスクールが多い印象です。
しかしながら、WEB系の企業は開発したシステムやアプリを納品することで初めてクライアントからお金がもらえる先行投資型のビジネスモデルのため、教育体制が整っている企業が少ないので、未経験者のニーズはほとんどありません。
そのため、WEB系企業を志望する受講生に対して、未経験者の募集が中心の客先常駐(SES)の企業や大規模なシステム開発を行うSIer、ネットワーク環境を構築・整備するインフラ系の企業といった『希望とは異なる企業』を紹介しているのが現状です」(森川氏)
なんとか就職できたとしても、憧れていたIT業界のイメージとはかけ離れていると感じる卒業生も少なくないのだろう。
プログラミングスクールにメリットはあるのか?
かねてから人材不足が叫ばれているIT業界だが、未経験者がスクールで学んだだけで理想の仕事に就けるとは限らないのが現状だ。そのような不確定要素が多い支援サービスだからこそ安心できる、就職できなければ受講料が返金される「転職保証制度」だが、これにも難点があると森川氏は語る。
「プログラミングスクールに通った転職希望者にヒアリングを行ったのですが、実態として全額返金されるケースはほとんどありません。何かしらの形で就職が決まった場合(IT営業職であっても)、スクールから出される課題を納期までに提出できなかった場合は返金対象にならないといった規定が存在しているためです。スクールによって返金規定は様々ですが、返金がなかなかされないように規定が設定されているようです。
スクール側としては、当然ながらプログラミングを教える人件費などが発生していますし、誰も彼もに返金していたらビジネスとして成立しなくなってしまいますので、最後の最後まで返金はしたくないというのが本音です。『就職できなくても返金される』と軽い気持ちで受講しようとせず、返金の条件をしっかりと確認したほうがいいでしょう」(森川氏)
逆に、プログラミングスクールを利用することのメリットはあるのだろうか。
「RIZAP(パーソナルジム)のように第三者に管理してもらいながら、モチベーションを上げつつ、プログラミング学習ができることはメリットでしょうが、就職や転職ができないとなれば、60〜70万円といったコストに見合った投資とはいえません。
プログラミングスクールではカリキュラムの質のそこまでの差はなく、実務経験のない方や最近まで受講生だった方を講師として雇っているスクールも存在します。学習における自己管理ができない方であればともかく、自己管理ができて勉強が得意な方であれば、本やネットを使って独学でプログラミングを学ぶことは可能です。
プログラミングの技術や開発の流れを学べることや、知見のある元エンジニアに学習をサポートしてもらえる利点はありますが、それに投資してもいい金額は10〜20万円といったところかと思います。コロナ禍においては、リモート講義が主流となったことで、受講生同士の横のつながりができづらくなったことも、スクール利用のメリットが損なわれていると感じます。
ですから、卒業した後に『どのようなエンジニア求人に受かる可能性があるのか?』を把握せずに、ただ漠然と希望を持ってプログラミングスクールに通うのはおすすめできません。利用する場合は、就職に直結する学習ができるのか確認した上で利用を検討することが大事です。
弊社でも現状のプログラミングスクールの課題を解消するため、『ウズウズカレッジ』というITスクールを開設しました。就職に直結するJavaプログラミングやネットワーク(CCNA)を、3カ月15万円の比較的安価な受講料で学べ、受講修了後には無料でキャリア支援を受けることができます。もし、今プログラミングスクールを検討している方であれば、検討候補に入れてもらえると嬉しいですね。
かかる費用とメリットを天秤にかけて、利用するメリットがあると判断できる場合のみ利用しましょう」(森川氏)
エンジニアとしてどのように働くのかをしっかりとイメージしたうえで、プログラミングスクールに通うべきかどうかを考えるべきかもしれない。
(文=佐久間翔大/A4studio)