2023年10~12月のGoogle(グーグル)のスマートフォン「Pixel」の出荷台数が、前年同期比527%の91万台と急伸したことがIDC Japanの調査により判明し、話題を呼んでいる。446万台で国内シェア1位のアップル「iPhone」の背中はまだ遠いものの、iPhoneと比べて割安な価格や独自の便利機能などが受けて勢いに乗るPixel。iPhoneとシェアが逆転する日はくるのか。そして、どちらが「買い」といえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
「iPhone大国」と呼ばれる日本で首位を独走するiPhone。9月に発売された「iPhone 15」シリーズは最下位機種でも12万円台(128GB)、最上位機種の「iPhone 15 Pro Max」は20万円台(512GB~)となるなど高額化が話題に。「15」ではUSB-Cコネクタの採用(全機種)、画面でのDynamic Island方式の採用(全機種)、ボディのチタン化(iPhone 15 Pro/Pro Max)、カメラのズーム機能強化(同)、アクションボタンの設置(同)、A17 Proチップの搭載(同)などが主な機能拡張として挙げられる。
iPhoneから10年遅れて2018年に日本に上陸したPixel。発売直後から爆発的に普及したiPhoneとは対照的に存在感は薄く、国内シェア1桁台が続いていた。昨年10月には最新機種の「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」を発売。3月7日現在、Pixel 8は8万9900円(128GB)、 9万9900円(256GB)、Pixel 8 Proは15万9900円(128GB)、16万9900円(256GB)、18万9900円(512GB)となっている。
そのPixelがじわじわとシェアを伸ばし始めている。前出・IDC Japanの調査によれば、従来型携帯電話とスマホの国内合計出荷台数(23年10~12月)をベンダー別にみると、1位のアップル(シェア55.0%)、2位のシャープ(11.4%)に次いでグーグルは3位(11.0%)の位置に。韓国サムスン電子(4.8%)、京セラ(4.7%)よりも上位で、シャープとほぼ同率に並んでいる。ITジャーナリストの石川温氏はいう。
「国内キャリアでのPixelの取り扱いはソフトバンクとKDDIだけだったが、23年からNTTドコモも販売するようになったことで、キャリア間の販売競争が過熱。大幅な割引も適用されるなどして、販売台数が伸びた。また、端末メーカーがCMを打つのは結構大変なことだが、グーグルは検索エンジンをはじめとするネットサービスによる潤沢な収入があるため、大量にCMを放送できるというのも強みといえる」
大手キャリア関係者はいう。
「検索エンジンをはじめとするネットサービスが主力事業だったグーグルだけに、iPhoneを主力製品とするアップルと比較すると、日本ではあまりPixelの拡販に力を入れてこなかったという印象を受ける。だが、カメラ性能の良さや編集機能の優秀さ、Google アシスタントを使った音声認識とネット検索の連動といったソフトウェア企業ゆえの強みが徐々に日本の消費者に認識されるようになり、さらにiPhoneと比べた際の『価格の安さ』にも後押しされ、人気に火が着き始めたという感じ」
どちらを選ぶべきか
最新機種で一般ユーザ向けとされるiPhone 15(128GB)とPixel 8(同)を比較してみると、価格はそれぞれ12万4800円、8万9900円となっており、3万4900円の開きがあり、Pixelのほうが約3割安く、価格差としては大きいといえる。そのほかの項目の比較は以下のとおり。
iPhone 15 Pixel 8
ディスプレイ 6.1インチ 6.2インチ
有機EL 有機EL
CPU A16 Bionicチップ Google Tensor G3
メモリ 6GB 8GB
背面カメラ デュアルカメラ デュアルカメラ
4800万画素(広角) 5000万画素(広角)
重量 171g 187g
ポート USB Type-C USB Type-C
バッテリー容量 3349mAh 4575mAh
上記のデータを比較する限りは大きな違いは感じられないが、ITジャーナリストの石川温氏はいう。
「スペックやカメラ、ディスプレイを比較するのはあまり意味がない。iPhoneが提供する『AirDrop』や『iMessage』など、これがないと友達とのやりとりができず仲間はずれにされるというのではあれば、間違いなくiPhoneを選ぶべき。また、写真をiCloudで管理している人も、もはやアップルから逃げられない。
一方で『iPhoneには飽きた』『消しゴムマジックを使ってみたい』という人であれば、Pixelに乗り換えるというのもアリ。ただ、OSを乗り換えるのは結構大変だ」
大手キャリア関係者はいう。
「これまでもハード面であまり大きな差はなかったといっていい。Pixelは、消しゴムマジックや夜景モードなどカメラ周りの機能、音声認識とネット検索の連動の良さ、音声の自動テキスト化や動画を自動翻訳してくれる機能など、グーグルのソフトウェア会社としての強みを発揮したさまざまな便利な機能によって、徐々にファンを増やしてきた。最新機種のPixel 8でも『音声消しゴムマジック』や、画像内の全員の顔がベストになる『ベストテイク』といったユニークな機能が話題になっているが、ハード面の進化が限界に達したスマホ市場において、こうしたソフト面で特徴的な機能を次々展開できる点はPixelの強みとなってくる」
iPhoneとのシェア逆転はあるのか?
気になるのは、iPhoneとシェアが逆転する日はくるのかどうかだ。前出・石川氏はいう。
「なかなかiPhoneユーザーをPixelに乗り換えさせるのは困難だと思う。ただ、ソニーの『Xperia』やシャープの『AQUOS』など、他のAndroidメーカーを使っている人をPixelにさせるというのはハードルはかなり低い。サムスンの『Galaxy』を含め、あらゆる他のAndroidメーカーのスマホからPixelに乗り換えさせることができれば、iPhoneと互角シェアになるのではないか。
ただ、その時は他のAndroidメーカーが瀕死の状態になってしまっているため、それが本当にAndroid開発元のグーグルにとって良いことなのかは考えなくてはいけない。本来グーグルは『いかにiPhoneユーザーをAndroidに乗り換えさせるか』という戦略を立てていく必要があるが、いまはPixelばかりが強すぎて、他のメーカーが少し可哀想な感じがする」
大手キャリア関係者はいう。
「iPhone 15とPixel 8の価格差は約1.4倍の開きがあり、3万円以上もPixel 8のほうが安いとうのは消費者にとって大きな魅力であることは確かだ。ただ、現在、日本人のスマホ所有者の約半分がiPhoneを使っているという事実は大きい。一般的なユーザは一度買ったスマホを4~5年ほど使うので『年換算すると数千円』だと考えれば、『今までiPhoneで使っていた機能やアプリを継続して使えるし、操作も慣れてるから』という理由で、買い替え時もiPhoneを選ぼうとなりやすい。コスパに敏感でかつガジェットのアーリーアダプター的な一定数のユーザがiPhoneからPixelに流れることで数%程度のシェアの上下は生じるかもしれないが、『圧倒的1位のアップルと2位のPixel』という構図が固定化されていくのでは」
(文=Business Journal編集部、協力=石川温/ITジャーナリスト)