通信技術領域のゲームチェンジャー?光電融合技術の可能性と課題…世界の半導体企業の開発競争が激化

●この記事のポイント
・世界の半導体関連企業の間で光電融合技術をめぐる開発競争が加速
・データセンターの消費電力が5分の1~10分の1くらいになる可能性
・実用化・普及の時期は2030年というところが1つのターゲット
世界の半導体関連企業の間で光電融合技術をめぐる開発競争が加速しつつある。AIの普及でデータセンター需要の急速な拡大に伴う消費電力不足の問題が顕在化し、かつ、より高速な通信速度が求められるなか、光電融合技術は通信技術領域のゲームチェンジャーになるとみられている。米エヌビディアや米ブロードコムなど世界の半導体大手が開発を進めており、米マイクロソフトはクラウドサービス・Azureで導入する意向を表明するなど事業者の動きが活発化している。どのような技術なのか。また、NTTグループがすでに高い技術を持っているとされ、半導体製造装置・半導体関連部品の市場では日本メーカーは高いシェアを持っているが、光電融合の領域で日本勢は高いプレゼンスを発揮することができるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
なぜ今、光電融合技術が注目されるように
光電融合技術とは何か。東京科学大学 工学院 教授の西山伸彦氏はいう。
「半導体とは、電流を流す導体と電流を流さない絶縁体の両方の性質を持ち、電流が流れるようにしたり、流れないようにしたりと制御できる材料です。その性質を利用して回路を構成したものが、一般的にCPUやGPUなど(以降、合わせてxPUと書きます)の電子回路と呼ばれるものですが、近年ニュースなどでは、この回路の総称として半導体と伝えていることが多いようです。この電子回路の回路に加えて光も使いましょうというのが光電融合技術です」
なぜ光電融合が技術的に可能になったのか。
「現在、電子回路を製造する材料として主流なのはシリコン半導体でして、一方でインターネットやDVD、ブルーレイには光が使われており、その光は化合物半導体を使って出力しています。化合物半導体は、シリコンではなく2種類の原子を混ぜ合わせて半導体の性質を持つようにしたものでした。1980年代後半から1990年代頃、光を通すだけならばシリコンでもできるということが提案されて、同一の半導体を使ったままで電気も光も流すことができるシリコンフォトニクスと呼ばれる技術が成熟してきて、電子回路の隣に光の回路を配置できるようになってきました。これが光電融合ですが、考え方自体は昔からあったということになります」
では、なぜ今、光電融合技術が注目されるようになってきているのか。
「電子回路が非常に速い信号処理を行うことを迫られているということが大きいです。電線や電子回路内部のトランジスタ間をつなぐ電気配線は、距離が長くなるほど電気的な損失が増えていくという性質を持っています。一方で光で配線をすると、距離が長くなっても損失量が一定なので、距離が長い場合は光のほうがエネルギー損失量が少なくで済みます。現在のようにxPUに非常に速い情報処理速度を求められるようになると、電子回路だけだと短い距離でもより多くの損失が発生することになります。以前は電気信号を電線だけで離れた場所に送っていましたが、現在では建物の外に出ると光ファイバーで通信するのが一般的です。そして将来的にAIなどの普及で、より速い通信速度が必要になってくると、極論を言うと、xPUなどの電子回路のすぐ隣から光で送信したほうが、よりエネルギー損失が小さくなります。
光電融合技術を使うシリコンフォトニクスは2000年代ぐらいから徐々に普及し、何百~何千kmの比較的長距離の通信で使われていましたが、光電融合技術が一気に注目され始めたのはここ数年ぐらいの話です」(西山氏)
消費電力を抑制
光電融合の優れた特徴としては、他にどのような点があるのか。
「光電融合と同じぐらいの処理速度を電子回路だけで実現しようとすると、電気回線1本あたりの速度が遅いので回線をたくさん並べる必要があります。光の場合は回線1本あたりの速度が速いので、多くの配線を必要とせず、小型化につながり、消費電力の抑制にもつながります。同じ土俵では比較できないので単純にはいえませんが、データセンターの情報処理にかかる消費電力としては、光電融合を使うと、使わない場合に比べて5分の1~10分の1くらいになるといわれています」
実用化・普及はいつ頃になるのか。
「来年にもすぐ実用化が進むというペースではなく、数年はかかるのではないでしょうか。実際に販売していく際には、導入する企業側は『本当に信頼性は大丈夫なのか』『信頼性をどのように保証するのか』『品質は何年保証されるのか』といった点を検証する必要があり、またコストの問題もあるので、実用化までは数年はかかるのではないでしょうか。関連事業者は急いで開発を進めているので想定以上に早く実用化される可能性はありますが、2030年というところが1つのターゲットになってくるとみられています」
気になるのは、光電融合の領域で日本企業がどれだけのプレゼンスを保つことができるのかという点だ。
「半導体関連の部品や製造装置の市場では日本メーカーは高いシェアを持っており、エヌビディアなどの製品にも日本メーカーの部品・部材が多く採用されており、その意味では日本のプレゼンスは非常に高いのは事実です。ただ、日本は最終製品としてのxPUは弱く、そこが大きな課題です。納入業者的な位置づけで終わってしまわないためにも、xPU周辺の高い技術をまとめて提供できるという形態を目指して、我々も今、企業と連携して取り組みを進めているところです」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=西山伸彦/東京科学大学 工学院 教授)










