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グーグル、なぜ電力消費半減の半導体を独自開発?クラウドの競争力向上に直結

2025.05.18 2025.05.18 13:00 IT
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Google Cloudの公式サイトより

●この記事のポイント
・グーグル、AI向け半導体・TPUの第7世代「Ironwood」を発表
・消費電力が従来より半減される点が注目。
・Google Cloudのシェア拡大のためには半導体の消費電力を低減させることは重要な要素

 米Google(グーグル)は9日、AI向け半導体・TPU(Tensor Processing Unit)の第7世代「Ironwood」を発表。AIモデルが「応答型」から「推論型」にシフトする流れに対応し、LLM(大規模言語モデル)、Mixture of Experts(MoE)、高度な推論タスクを含む「思考モデル」の複雑な計算とコミュニケーション要求を円滑に管理できるように設計されている点が特徴。なかでも消費電力が従来より半減される点が注目されているが、グーグルがTPUの消費電力削減に重きを置く理由は何か。また、半導体の消費電力が削減されると、どのような効果が生じるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

 Ironwoodは生成AI開発向けに構築されており、最大9216個の液冷チップをチップ間相互接続(ICI)ネットワークに接続でき、約10MWまで拡張可能。大規模なテンソル操作を実行しながら、チップ上のデータ移動とレイテンシ(データ転送に伴う遅延時間)を最小限に抑制。完全なTPUポッド規模で連携、および同期されたコミュニケーションをサポートするために、低レイテンシ、高帯域幅のICIネットワークを備えている。

 なかでも注目されているのが、大幅な電力効率の向上だ。2024年に発表された第6世代TPU「Trillium 」と比較して2倍の消費電力あたりのパフォーマンスを発揮。ワークロードに対する1ワットあたりの能力が大幅に向上しており、高度な液冷ソリューションと最適化されたチップ設計により、継続的な高負荷のAIワークロード下でも、標準的な空冷の最大2倍のパフォーマンスを安定して維持できる。2018年の初代TPU と比べて電力効率が約30倍優れているという。

エヌビディアより優れた半導体が必要な理由

 グーグルは検索エンジンやクラウドサービス「Google Cloud(グーグルクラウド)」、生成AIモデル「Gemini」、「Google Workspace」などを提供するインターネットサービス企業、ソフトウェア企業として知られているが、なぜ自社で半導体を製造しているのか。国際技術ジャーナリストで「News & Chips」編集長の津田建二氏はいう。

「グーグルクラウドのクラウドサービスを運営する上で重要なデータセンターには、AI開発に使える高性能なコンピュータを大量に設置する必要があり、そのなかで使う高性能なCPUを開発しておく必要があります。コンピュータの性能を大きく左右するCPUは消費電力も大きく、より消費電力を抑えた半導体、その面ではエヌビディアより優れた半導体が必要だということで、グーグルは自社開発を行っているのだと考えられます」

Google Cloud はAWS、Azureに次ぐ3位の位置づけ

 なぜ消費電力がカギとなるのか。

「大雑把に説明すると、データセンターに設置された多くのコンピュータは仮想化ソフトウェアを使って一つのコンピュータとみなされ、細かくリソースを分けて顧客にサービスを提供しています。AI開発には大量の電力が必要であり、今後世界的に電力需給が逼迫すると予想されるなか、仮に一つのデータセンターで消費する電力量が同じ場合、一台あたりのコンピュータが消費する電力が減れば、その分、より多くのコンピュータを設置することができ、サービス提供能力が増すことになります。現在、世界のクラウド市場ではグーグルはAWS(アマゾン ウェブ サービス)、マイクロソフトのAzureに次ぐ3位の位置づけですが、シェアを伸ばしていくためには半導体の消費電力を低減させることは非常に重要な要素となってきます」

(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)

津田建二/国際技術ジャーナリスト、「News & Chips」編集長

津田建二/国際技術ジャーナリスト、「News & Chips」編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。
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