例えば、優秀なプログラマーには、どちらかというと暗くて声の小さい人もおり、そのようなタイプは面接では確実に不利になります。印象を重視すると、そういう人を落としてしまう危険性があるわけです。また類似性の法則から、同じような人は馴染ませやすいと言いましたが、アメリカ軍による研究では、同質の人を集めたチームよりも、さまざまなタイプの人を組み合わせたチームのほうが強力であるという結果が出ています。採用側が考えるであろう、『職場に馴染ませやすい』というのは、一見メリットのようですが、実際はデメリットとなる可能性もあるのです」(同)
人間関係を重視する傾向が強い日本の企業にとって、職場に馴染めるか否かは非常に重要なポイントであるが、それが業績につながるとはいえないようだ。そうであれば、企業が顔採用を行うメリットは実質的には、あまりないだろう。
「印象重視の採用をしているとみられる企業は、中長期の事業ビジョンが不明確なことが多く、『こういうタイプの人が何名必要で、その人をどう活躍させたいか』などの明確な設定をせず、『良い学生がいたら採る』といった漠然とした採用をしているように見えます。明確なビジョンのある会社は、採用するべき人物像を定めて、『それに見合う人がいなければ、今年は採らなくてもいい』と腹をくくっています。売り手市場になってきたからといって、採れるだけ採ろうとしている企業は、採用に失敗してしまう可能性が高いでしょう」(同)
●都市伝説に振り回される学生は、就活に失敗する?
濱田氏は、顔採用という言葉に学生が振り回されすぎていると指摘する。
「学生を中心に顔採用という言葉が広まった一番の理由は、不採用となった時に、自分がなぜ落とされたのかわからないからだと思います。企業側も不採用の理由を説明しませんので、落とされた側には当然、解けない疑問とネガティブな感情が残ります。そこで、顔採用があるということにしておくと、『自分の努力とは関係ない要素によって決まった』と納得しやすく、学生にとっては都合がいいのです。しかし、そこから『イケメンや美人は努力しなくても受かるが、自分は努力しても受からない』などと考え、その卑屈な思いが顔や表情に出てしまうと、印象が悪くなってしまいます。そうならないためにも、真偽不明な情報や固定観念とは縁を切るべきです」(同)
面接で好印象を与えられるように気を使うのは良いことではあるが、見た目について必要以上に意識するあまり不採用になってしまうのでは、元も子もない。
現在、大学新卒者に対する有効求人倍率は4年連続で上昇し、2008年のリーマンショックから始まる第二の就職氷河期は終わりを迎えつつある。そんなチャンスの中にあって、一つの会社に落ちた程度で「あの企業には顔採用がある」などと嘆いていたのでは、一時的に自分を納得させられたとしても、かえってその後の就活においてマイナス要因となりかねない。
(文=日下部貴士/A4studio)