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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第6回

カネでOBを買収し、合併を目論む巨大新聞社を阻む“事情”

カネでOBを買収し、合併を目論む巨大新聞社を阻む“事情”の画像1「Thinkstock」より
※前回連載はこちら
巨大新聞社、外部からのチェックゼロで社長のやりたい放題!?

【前回までのあらすじ】
ーー巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、合併の話を持ちかけていた。しかし、基本合意を目前に控え、事務的な詰めに入ろうとしたところで、急に合併に後ろ向きな姿勢を見せ始めた村尾。なぜなら、日亜には、同社の株を所有する多数のOBたちを、合併に合意させなければならないという、新聞社特有の特殊事情があったーー。

 旧日々新聞出身株主が経営上どうでもいい存在になったのは、合併後の日亜新聞が経済報道を売り物にし、急成長したことと無関係ではない。

 合併前、旧日々は「公電窃盗スクープ事件」で、その報道姿勢をソ連親密路線から対米協調路線に急旋回させた。合併後はその延長線上で、米国のプロパガンダ紙的な役割を担うようになった。昭和50年代に入り、第二の経済大国として日本経済が米国の脅威になり始めると、日米関係も変質した。

 戦後、日米関係は一貫して政治問題だったが、昭和50年代以降は経済問題となり、昭和60年代、平成とその比重は高まった。そうした中で、経済報道重視の日亜は米国の主張を代弁し、日本政府に市場開放を迫る立場を鮮明にした。それが米国の本音を知りたい日本の経済界のニーズと合致、部数を伸ばしたのだ。

 部数が伸びれば、人員や設備も増やす必要が生じる。アナクロニズムの株式会社だから、広く資本を集めることはできない。しかし、銀行借り入れや社債発行で資金調達するためには、資本をまったく増強せずには対処できない。

 日亜は合併後、5回増資をした。最初と2回目は各3億円、3回目と4回目は各6億円、最後の5回目は9億円で、現在の資本金は30億円になっている。5回の増資はすべて発行価格が旧額面の50円で、社員・OBに割り当てた。

 合併後の日亜に入社した社員にも株式は割り当てられたので、合併前の旧日々OB・社員が3分の2、旧亜細亜OB・社員が3分の1という保有割合が続くことはあり得ない。株を保有していれば、新株を引き受ける権利があるので、全員が権利を行使すれば、旧日々と旧亜細亜の出身者の持ち株比率が2対1のままでもおかしくない。

 しかし、現実にはそうならなかった。現在の日亜の発行済株式数は6000万株である。半分の3000万株は合併後の日亜に入社した社員と役員が保有。残りの半分を旧日々、旧亜細亜出身のOBが保有しているが、OBの持ち株比率は完全に逆転している。OB持ち分の3分の2、2000万株は旧亜細亜出身者、3分の1の1000万株が旧日々出身者の保有になっており、旧亜細亜出身者が一致団結すれば拒否権を行使できる。

●貯蓄より断然有利だった自社株

 なぜ、そうなったのか?

 旧日々出身者は社会主義信奉者が多く、思想信条から株式の取得を拒否したからだ。対する旧亜細亜出身者は経済新聞だったこともあり、資本主義を是認していたうえ、経済観念が発達していた。合併直後こそ、日亜新聞株の配当は3%だったが、増資を始めて以降は10%以上、3年前までの10年間は18%の高配当で、他の貯蓄をするより、日亜株を買うほうが資産運用としてずっと有利だったのである。

BusinessJournal編集部

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