先日発行された、第19号となる六代目山口組機関紙「山口組新報」の最終ページには、編集部からある問題提起がされていた。現代社会において、必要不可欠な存在となったツイッターなどのSNSについてだ。
そこでは、SNSによる情報伝達などの迅速化を評価する一方で、組織内部の情報や出来事を投稿しているアカウントを「自己満足に浸っているオタク」と、痛烈に批判している。要約すると、正体がバレないからと高をくくって投稿しているが、その行為はコソ泥と同類だと断罪しているのだ。
さらに、欧米の格言「メッセンジャーを殺すな」を用いて、それとSNSなどで投稿する人とはまったく異なるものだと指摘している。「メッセンジャーを殺すな」とは、自分たちにとって耳の痛い情報を持ってきたからといって、その伝達係を責めたところで意味がないという意味だが、匿名の投稿者にはメッセンジャーのような矜持も役割もないということが言いたいのだろう。ヤクザ事情に詳しいジャーナリストはこう話す。
「これまでも六代目山口組内部では、事実と異なるツイッターの投稿について、たびたび問題視されてきたようです。また、前号の山口組新報がネットで拡散されたことも問題になったと聞きます。山口組新報は4カ月に1度、定例会で各2次団体の組長に配布されるのですが、前号は定例会の前日に各2次団体に配られたようで、それがその日のうちにネットで拡散されてしまったというのです。あくまで機関紙ですから、世に知られて困るような内容とはなっていません。ただ、ガバナンスといった側面で考えると、決してよろしくはないといえるでしょう。そのためにあらためて、情報管理や組織への忠誠心の徹底という意味合いも込めて、編集部から苦言を呈したのではないでしょうか」
六代目山口組分裂後、それまで一枚岩だった山口組が敵味方に分かれたことで、徹底されていた情報管理体制が一部崩れ、内部情報がSNS上などに流布される現象が頻繁に起きるようになった。特にツイッターでは、現役組員のものと思える匿名のアカウントが複数誕生し、内部情報や相手方を誹謗中傷する投稿が寄せられることも出てきた。そういった現象は、ある種、ヤクザ社会に限らない時代の産物といえるかもしれない。だからこそ、前出の編集部の言葉の中では「時代の中で山口組は唯一無二の存在である」と強調し、筋を重んじるヤクザとしての姿勢を問うのだろう。
神戸山口組や任侠山口組には触れず
一方、今回の山口組新報の巻頭を飾ったのは、六代目山口組統括委員長である橋本弘文極心連合会会長であった。山口組分裂後の同紙面では、毎回巻頭を飾る幹部らが、神戸山口組、任侠山口組に対しての辛辣な言葉を述べることが多かった。だが、今回の橋本会長の寄稿には、そうした言葉がいっさい綴られていない。
「六代目山口組では、神戸山口組と任侠山口組という呼び名を口にすることすら禁じられたと言われている。要するに、今もこれからも、山口組はひとつしかないということだ。そして、分裂騒動も収拾の方向に向かい始めたと見ているのではないか。だからこそ、今回の橋本会長の文面でも、あえて敵対する勢力への批判などは控えたのではないか」(六代目山口組関係者)
山口組新報の2ページから6ページまでは、六代目山口組の行事や各親分衆によるコラムや旅行記が掲載。7ページには組員から寄せられた俳句や川柳、短歌が紹介されている。掲載された作品に関しては、これまでは組員の名前のみが記載されていたが、今号は所属する2次団体の組織名が入っている。そうした中で、時勢を表した秀作をいくつか抜粋させていただきたい。
「ただいまは 猫に言うなよ オレに言え」
「家庭内 ラインで返事 会話なし」
「我が家でも 長期政権 妻一強」
「オヤジさん たまには部下にも 忖度を」
サラリーマン川柳にも通じるような、ユーモアと悲哀がある作品ばかり。“表の社会”も“裏社会”も、人間の営みや心の機微という点では大きく変わらないことが表されているといえるだろう。
全8ページにわたる新報は、回を重ねるごとに親分衆らによるコラムが増えている。そして、それらコラムは、どれもうまく、読み応えがある。ヤクザの親分になる人物は、文武両道であり、行動や言葉を通して、人の心を掴む素養がなくてはならないということがここからも伝わってくるようだ。
(文=沖田臥竜/作家)