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【悪化する日韓関係】嫌韓を煽るメディアよ、頭を冷やせ…江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト

失われていく加害の「実感」

 それにしても、なぜ終戦から70年以上がたち、日韓基本条約が結ばれて国交が正常化してから来年で55年になろうという今になって、以前よりも歴史の問題がクローズアップしてしまうのだろう。実際に、韓国でも日本による被害を体験した人は少なくなり、さまざまな交流のなかで、傷は癒やされてきたと思っていたのは、甘かったのだろうか。

 逆に戦前戦中を直接知る人が少なくなってきたことで、実態に即さない、知識やイメージ先行で歴史を語る人が増えたことが、歴史認識をめぐる対立を激しくしてしまっているのかもしれない。

 かつての日本の政治家や識者は、自分の体験や親しい人の話から、日本が植民地としたことで迷惑をかけて申し訳ない、という意識を大なり小なり持っていた。そのため、さまざまな機会をとらえて、謝罪を述べてきたし、それに見合う態度をとってきた。

 たとえば、1984年に全斗煥・韓国大統領が国賓として初来日した時の晩餐会で、当時の中曽根康弘首相は次のように述べた。

「日韓交流史の中で、遺憾ながら今世紀の一時期、わが国が貴国及び貴国国民に対し多大の苦難をもたらしたという事実を否定できない。私は政府及びわが国民がこのあやまちに対し、深い遺憾の念を覚えるとともに、将来を固く戒めようと決意していることを表明したい」

 1992年に盧泰愚大統領が訪日した際にも、宮沢喜一首相が「数千年にわたる交流のなかで、歴史上の一時期に、我が国が加害者であり、貴国がその被害者だったという事実」を忘れてはならないと述べ、「この間、朝鮮半島の方々が我が国の行為により耐え難い苦しみと悲しみを体験されたことについて、ここに改めて、心からの反省の意とお詫びの気持ち」を表明した。慰安婦問題についても、「実に心の痛むことであり、誠に申し訳なく思っております」と謝罪した。

 ただ、こうした謝罪は、映像として広く世界に伝わったわけではない。世界各地にホロコーストを生き延びたユダヤ人がいて、ドイツ首相の謝罪が世界に伝えられたのとは異なり、東アジア、しかも日韓関係に限定される問題は、国際的にも関心を集めなかったのだろう。

 調べれば首相の発言などの資料はあるが、言葉の壁もある。日本語が読めない人が容易にアクセスできる資料がないと、謝罪の事実すら忘れられ、なかったかのように受け止められてしまう。今、日本が過去の問題に向き合わずにきたような論評を海外からされるのは、そうした事情もあると思う。

 だからこそ、2015年暮れの慰安婦問題に関する日韓外相合議の際には、安倍晋三首相がカメラの前で、歴代首相の謝罪に触れつつ、改めて謝罪の言葉を述べることを期待したが、それはかなわなかった。それがあれば、元慰安婦の方々にとって癒やしになるだけでなく、国際社会に向かって、日本の立場をアピールできる材料にもなっただろうに、と残念だ。謝罪を外相が代弁するというのが、安倍首相の限界だったのだろう。

 それはともかく、過去に首相として謝罪の言葉を述べた中曽根氏は戦時中、海軍の将校であり、慰安所の開設にも関わった。宮沢氏も、大蔵官僚として戦争を体験している。そうした人たちは、日本が韓国にかけた迷惑を「実感」としてわかっていた。一方の韓国側は、北朝鮮の脅威にもさらされており、安全保障や経済発展を優先する事情があった。

 しかし、当事者として戦争に関わった人たちが現役を退き、さらにはこの世を去っていくにつれ、加害の「実感」は失われていく。世代交代の過程でも、原爆や空襲などの被害の経験は語りやすいが、加害の経験は伝わりにくい。安倍首相も、祖父の岸信介元首相から、加害の事実は教わっていなかったのだろう。

 戦争を知らない世代にとっては、「加害の事実」は、自分たちがしでかしたわけではなく、実感も持てない。それなのに、いつまでも「加害者」という立場に置かれることに倦み、不満を募らせる人たちが増えていく。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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