慶應義塾大学アメリカンフットボール部「慶応ユニコーンズ」が10月15日、無期限活動自粛を発表し、波紋が広がっている。活動自粛の理由について、「部内において複数の部員による著しく不適切な行為があったことが認められたため」としつつ、「教育的観点およびプライバシー保護の観点から、詳細は公表いたしかねます」と事実関係を隠したことから、さまざまな憶測を呼ぶことになった。
一部メディアでは、アメフト部が8月に合宿を行った際に複数の部員が女子マネージャーたちの入浴姿を盗撮して、SNSなどで拡散したことが原因ではないかと報じられている。
これを受けて、「また慶大か」「今までも慶大は加害者を厳しく処罰してこなかったから、同じようなことが繰り返される」といった批判がインターネット上を中心に繰り広げられている。
慶大の学生による犯罪がほかの大学に比べて多いかどうか、実態はわからない。確かに慶大生の犯罪に関する報道はよく見かけるが、ほかの大学に比べて知名度が高いこともあり、事件が報じられやすいという側面はあるだろう。また、全国の大学別の犯罪等の件数がリスト化されているわけでもないので、一律に比べることもできない。
だが、同程度の知名度がある早稲田大学をはじめとする他の東京6大学などと比べても、事件報道は多いといえるだろう。特に性犯罪の多さは慶大のイメージを貶めているといえる。
ではなぜ、慶大で事件が相次いでいるのか。
よくある指摘のひとつに、慶大には、いわゆる“ボンボン”が多く、甘やかされてきた人間が多いから、というものがある。これは事実なのか。ある慶大OBは、部分的に認めつつも、その考え方自体は否定する。
「慶應義塾は、幼稚舎(小学校)から入り大学まで進んだ人と、大学から受験して入った人では、まったく“派閥”が異なります。幼稚舎は、確かに“お受験”する子供もがんばらなくてはなりませんが、親の“資力”も重要になります。小学1年から大学までの16年間の学費をまかなえるだけの十分な収入・資産があることを証明しなければ、入学はできません。特に横浜初等部の授業料は、一般的な私立小学校と比べても極めて高額で、日本一高いといわれています。そのため、政治家や会社社長、医師、芸能人、スポーツ選手といった高所得者の子どもが必然的に多く集まっています。
つまり、裕福な家庭の子が多い、というのは事実です。何不自由ない環境下で甘やかされてきた人が多いとも感じます。しかし、裕福な家庭で育った人はモラルが低いのかといえば、そうではないと思います。むしろ、ルールやマナーを守ることをしっかりと教えられてきた人のほうが多いのではないでしょうか」
では、ほかに原因があるのだろうか。別の慶大OBは、友人関係によって大きく変わるとの見方を示す。
「私の同級生で、医学部に入った際に父親がキャンパスの近くに高級なマンションを用意してくれたという学生がいました。彼のマンションがキャンパスに近かったことから、当然のごとく学生たちの“たまり場”になり、ほどなくして医学部生たちが女の子を連れ込む部屋になっていると噂が立ちました。彼は非常に温和な性格で友達も多くいましたが、入学から1年もたつ頃には派手に遊ぶようになり、かつての友人たちはほとんど離れていきましたね。
慶大の医学部は、初年度の納入費用は380万円ほどで、6年間在籍すると学費は2000万円を超えます。しかも、実験や研修などでバイトをする時間は取れないので、生活費などを合わせると3000万円は下らないといわれています。それでも、寄付金などは全国のどの大学よりも多く集まることなどから、極めて裕福な家庭から入学してきていることがわかります。実際に、親が医師などの超高収入世帯の子しかいません。そんな医学部生は、夏休みなどのまとまった休みには、かなり派手に遊ぶ傾向がありますね」
体育会系の部活の集団心理
また、暴行事件等は部活動やサークルを舞台に発生することが多いが、特殊な事情があるのだろうか。犯罪心理学にも詳しい都内の精神科医は、「体育会系、特に団体競技は“集団心理”が働いて善悪の判断が麻痺することもある」という。飲酒時や合宿などで気分が高揚した際に“ノリで”悪事を働くことが多いのではないかとの見解を示す。
今回の「不適切な行為」はアメフト部で起きたが、野球部、サッカー部、ラグビー部といったほかの団体競技の部活動でも起き得るのだろうか。慶大野球部OBは、そうではないことを願うとしつつも、体育会ならではの関係性に懸念を示す。
「実は、体育会系の部活は結構お金がかかります。部員たちは年間5~20万円ほどの部費を払っていますが、活動費の多くはOB会からの助成金で賄っています。そのため、OBたちの発言力が大きく、飲み会などでOBから無理難題を言われても断れないという、いわば“パワハラ”のような状況になる部活もあるようです。それが悪いほうに働かなければいいなとの懸念はありますね」
それでも、野球部とラグビー部については、規範意識は高いと胸を張る。
「慶大に関していえば、野球部とラグビー部だけは定期戦の観戦チケットなどの興行収入で黒字を出しており、それを学校に収めて、学校が各部に分配しています。そのため、各部から一目置かれる存在といえ、それぞれの部員たちにも“大学内で模範的な部でなければいけない”という意識はあると思います」
他方、ライバルの早稲田大学OBは、どう見ているのだろうか。
「あまり人のことはいえないけど、慶應の学生たちは“選民意識”が特に強いように感じることが多々ありました。政界・経済界に太いパイプがあり、学生の親や卒業生たちからは毎年莫大な寄付金が集まることもあってか、“自分たちはエリートだ”という空気を醸しだしていますね。早慶戦などで対峙すると、『医学部ないくせに』『マンモス校なのに金がない』などと揶揄されました」
“天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず”と語った慶應義塾の創始者・福澤諭吉翁は、“賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできる”と教えている。つまり、大まかにいうと「人間は本来、みな平等だが、勉強したか否かによって、賢い人と愚かな人に分かれる」と説いた。
せっかく“名門”といわれる慶大に進学しても、人生に必要なことを学んでいなければ、賢人にはなれない。
(文=編集部)