介護心中、続出で社会問題化…老人ホーム不足や高額料金で入所困難、「家族介護」幻想の罠
そういう場合、「自分が死んでしまったら、介護する者がいなくなる。それはかわいそうだから、先に殺して、自分も一緒に死のう」という心理が働きやすい。その結果、介護者自身も死んでしまったら心中になり、介護者だけ生き残ったら殺人になる。
とくに真面目で責任感の強い人ほど、周りに迷惑をかけたくないと思うためか、援助を求めたり相談したりするのをためらう傾向がある。そのため、介護を1人で抱え込みやすく、心中や殺人などの悲劇につながりやすい。
介護施設に入れられない理由
これだけ介護疲れから心中や殺人が起きているのだから、そうなる前に要介護者を施設に入れればいいという意見も、もちろんあるだろう。だが、実際にはそう簡単にはいかない。その理由は、3つあるように思われる。
1)経済的負担
2)介護施設への不信感
3)「家族介護」幻想
まず、介護施設に入れるための経済的負担は切実な問題である。介護施設に入れるのに必要なお金を工面するのが難しい家庭は少なくない。介護付き有料老人ホームの場合、1月の利用料が20~30万円以上かかるところが多い。これだけの金額を毎月払える家庭は限られるだろう。
できるだけ介護費用の負担を軽くしたいというニーズに応えるのが特別養護老人ホームで、従来の大部屋で8~9万円程度、ユニット型個室でも12~16万円程度ですむ。だから、当然人気が高く、入所申込者数は全国で50万人を超える。
しかも、入居条件は、65歳以上で要介護3以上の介護度の高い人である。こういう条件が付いているので、徘徊が多いのは、記憶障害があっても身体機能は比較的保たれている要介護2程度の認知症患者なのだが、こういう人は特別養護老人ホームには入れない。
したがって、介護付き有料老人ホームに入れるだけの経済的余裕がない家庭では、介護度が上がり、特別養護老人ホームが空くのを待つしかない。もっとも、介護認定審査会で審査判定の資料として用いられる主治医意見書を数多く書いてきた経験から申し上げると、介護認定は年々厳しくなっている。また、特別養護老人ホームが空くのは、ほとんどの場合入所者の死亡による。
さらに、施設への不信感が根強いのも重要な問題である。不信感の最大の原因は虐待だろう。「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」にもとづき、平成29年度の高齢者虐待の状況を把握するために厚生労働省が実施した調査によれば、介護施設従事者による高齢者虐待の件数は、510件であり、前年度より58件(12.8%)増加していた。なお、市町村への相談・通報件数は、1898件もあり、前年度より175件(10.2%)増加していた。高齢者虐待防止法が施行された2006年以降の高齢者虐待の件数の推移を振り返ると、一貫して増え続けていることがわかる。