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受領を望む貴族は多かった。理由はその収入の多さにある。清少納言の『枕草子』には、国司に任命されそうな人物の家に多くの人が集まり、任命を今か今かと待ち望んでいたものの、結局空振りに終わり、人々がすごすごと帰っていく姿が描かれている。
もちろん受領の潤沢な収入の源はすべて税だから、搾り取られる住民にとってはたまったものではない。搾取があまりにもひどく、住民から訴えられる受領もいた。988年(永延2年)に訴えられた尾張守藤原元命(もとなが)もその1人だ。訴状によれば、不当に高い利息を取り立てたり、法外に安い値段で産物を買い上げたり、田の面積を何倍にも算定して税を取ったり、京から連れてきた粗暴な家来どもが暴力で収奪を行ったりした。
元命は告発を受け、尾張守を解任されたが、やがて政界に復帰している。受領は一度その地位に就くと、蓄えた財物を使い、中央政府の支配層である皇族や貴族の歓心を買った。支配層の生活は受領なくして成り立たなかったから、受領の収奪をやめさせるという考えは乏しかった(川尻秋生『揺れ動く貴族社会』)。
平安時代の例が示すように、税逃れ横行の背景には必ず、重い税負担があるし、その税額が適正である保証はない。有名人の税逃れをメディアや評論家といっしょになって攻撃し、課税強化を唱えるのは正義感を満足させるかもしれないが、次に標的になるのは数の多い中間層だ。
(文=木村貴/経済ジャーナリスト)
<参考文献>
川尻秋生『揺れ動く貴族社会』(全集日本の歴史4)小学館
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