お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実さんの個人会社が、東京国税局から計約1億2000万円の申告漏れなどを指摘され、問題となった。徳井さんが所属する吉本興業は、徳井さんが当面の間、芸能活動を自粛すると発表。本人が事務所に申し入れたという。
いつものことだが、有名人の税逃れに対するメディアの非難はすさまじい。「文春オンライン」は「本当にふざけている」という東京国税局関係者のコメントを引用。元衆院議員でタレントの東国原英夫氏は昼の情報番組で「想像を絶するルーズさだ」と批判した後、税の申告を怠る無申告について「脱税と同じくらいの罪の重さにするべきだ」と持論を述べた。
もちろん納税を怠るのは違法だ。けれども徳井さんの場合、家の郵便ポストもろくに見ないという、天才肌の芸人らしい「ルーズ」さが原因であり、意図的に所得を隠そうとしたわけではない。極悪人のように叩かれ、芸能界から事実上追放されかねない事態に陥るとは、いささか度を越している。
税金を取るのは合法であっても、それが経済の活力を保つうえで適切な額かどうかは別問題だ。徳井さんに限らず、タレントの多くは収入が増えると個人会社を設立する。目的は節税だ。このこと自体、税の重さを物語っている。個人にかかる税が軽ければ、誰もわざわざ時間と費用をかけて節税目的の会社などつくらない。
本来なら本業にあてられる時間とお金を節税のために奪われているわけだ。これは何も芸能人だけの話ではなく、事業家をはじめ節税に励まざるをえない人すべてに言える。社会全体で無駄になる時間とお金は膨大で、経済的な損失は計り知れない。徳井さんのように仕事を自粛すれば、その分稼げなくなるから、結局税収も減ってしまう。
平安時代の税逃れ
そもそも国家が誕生して以来、人間の歴史は、税金を取る政府と取られまいとする市民のせめぎ合いだった。日本でもその例は枚挙にいとまがない。とくに興味深いのは、平安時代の地方社会だ。
奈良時代に成立した律令制は、国家による土地所有を基礎とした中央集権が特徴で、戸籍で人民を把握し、穀物や布、労役などによる税を課した。ところが8世紀の後半から、農村では税の負担を逃れようとして浮浪・逃亡する農民が相次ぐ。9世紀になると、税逃れのため戸籍に偽りの記載をする「偽籍」が増えていった。