コーヒーチェーン大手のスターバックスが2018年に、プラスチック製ストローの使用を20年までに全世界で廃止すると発表し、その後、追随するかのように、外食産業が続々とプラスチック製ストローの廃止方針を打ち出した。日本国内でも、ファミリーレストランのすかいらーくグループが全廃する方針を発表した。
プラスチック製ストローの廃止は、飲食業界だけにとどまらない。家具チェーンのイケアも、ストローを含むプラスチック製品の販売を2020年までに全世界で中止すると発表。こうしたムーブメントが起きたのは、ある動画がきっかけだといわれている。
その動画には、痛々しい姿のオリーブヒメウミガメが映されている。鼻に刺さっているのは、人間が捨てたプラスチック製ストローだ。これを引き抜く動画はとてもショッキングなもので、現在も拡散されている。さらに、使用廃止を表明する企業が増えていることから、プラスチック製ストローそのものが害悪なものとまで見られているようだ。
確かに、プラスチック製品は海を汚染し、生物にも甚大な被害を与える恐れがある。しかし、プラスチック製ストローが世界からなくなったからといって、海洋汚染を防げるわけではないだろう。伸縮ストローを主力とする、ストローメーカーの日本ストローに話を聞いた。
「プラスチック製品が海洋汚染の原因になっていることは事実ですが、ビニール袋やカップ類など、プラスチックを使用している製品は、ストロー以外にもたくさんあります。ストローはそのなかのごく一部なので、たとえ世界中で廃止されたからといって、海洋汚染がなくなるとはいえないのではないでしょうか」(日本ストロー)
ストローをはじめとするプラスチック製品は、汚染の直接的な原因である。しかし、人々がゴミの捨て方などの意識を改めなければ意味がない。
プラスチック製ストロー廃止の動きは、環境に対する意識や行動を改めるきっかけになっていくのではないかとの期待も持てるが、「プラスチック製ストローがすぐになくなることはない」(同)という。
「伸縮ストローは寝たきりの方など、体の不自由な方が水分を補給する際にも用いられ、医療の現場でも採用していただいています。伸縮させたり、飲み口にカーブをつけて傷つけにくくしたりするのは、加工しやすいプラスチックが最適。一方、紙は伸び縮みがしにくいため、伸縮ストローには不向きです」(同)
紙製ストローも普及しつつあるが、プラスチック製と比べると耐水性は弱いという。また、子どもが使用している時などに噛んで切れてしまうという懸念もある。喫茶店などで長時間会話を楽しんでいるうちにふやけてしまうといった課題も残る。
ほかにも、ステンレスやガラスなど、洗って再び使えるストローもあるが、ゴミの軽減にはつながるものの洗うのは手間がかかり、利便性に欠ける。また、きちんと手入れをしなければ、不衛生な状態になってしまう懸念もある。
さらに、竹や紙などの素材はコストがかかる。プラスチックと紙では、5~10倍ほどのコスト差が生じるという。このコスト差を解消できなければ、多くの企業は簡単にプラスチック製ストローを廃止できないだろう。
「プラスチックストロー反対運動は詐欺と同罪」との指摘も
日本ストローでは、環境に配慮した素材を使った研究も進めている。世界中でプラスチックが問題視されているが、製品を使用する分には人体に有害ではなく、さらに利便性も高い。使用後に適切に処分、もしくは再利用できればいいのだ。だが、プラスチックは国内で処理しきれていないのが現状だ。
日本は年間903万トンのプラスチックごみが排出されるが、そのうち約130万トンを海外へ輸出している。かつて廃プラスチックの輸出先は“世界最大のプラごみ輸入国”だった中国が中心だったが、中国が2018年にプラごみ輸入禁止に踏み切ったため、東南アジアの国々に流れ始めた。だが、その東南アジアでも受け入れを拒否する動きが拡大しており、今後は国内で全量を処理することが必要になってくる。
ストローは手っ取り早く紙製品などに代替できるため、企業が環境対策に乗り出していることをアピールする手段として使われている感がある。事実、今年流行したタピオカドリンクで紙製ストローの使用を謳っている企業があったが、カップはプラスチック製だった。透明でなければ、タピオカドリンクの売りである“インスタ映え”が望めないという背景もあるだろう。だが、カップはストローよりも多くのプラスチックを使用していることを考えれば、カップこそ代替製品の使用を検討すべきではないだろうか。
中部大学教授の武田邦彦氏は、自身のメルマガ『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』において、プラスチックストロー反対運動は詐欺と同罪と断じている。
プラスチックが主に使われるのは、自動車や家電製品などの工業製品、家具、農業用フィルム、柵などで、さらに身の回り品として、ビールのケース、荷造りのヒモ、カップや包装などであると武田氏は指摘し、「プラスチックストローということになると、プラスチック全体の1万分の3ぐらいで、(略)普通はゴミとして捨てられるので、量的にも捨てる方法としても問題はありません」と語る。つまり、ストローをやり玉に挙げて廃止を唱えたところで、プラスチック使用量は大きく変わらないというわけだ。
まずは、どこでどの程度プラスチックが使用されているのかを適切に把握し、代替が可能なものはないのかをつぶさに検討していくことが重要なのではないだろうか。
(文=編集部)