生きた化石が死んだのは、新聞社やテレビ局の撮影時のストロボや照明のせいのなのか。それとも、深海と水槽の環境の違いからなのか。16日に熊野灘で捕獲され、和歌山県串本町の「串本海中水族園」に展示されていた珍しい深海ザメ「ラブカ」が、17日午前11時に死んだことが確認された。インターネット上ではこの死因をめぐって議論が沸騰している。事の発端は朝日新聞の記事だった。
朝日新聞デジタルは17日付で、「生きた化石ラブカを捕獲 水族館で展示後に死ぬ」と題した記事を公開した。記事では「水族館によると、深海釣りをしている那智勝浦町浦神の遊漁船から、水深約550メートル付近で捕獲したと連絡が入ったという。体長は128・9センチで、体の特徴からオスとみられる。16日午後、水族館へ運ばれ、館内の水槽に入れられた」と捕獲の経緯を説明。そのうえで、同水族館で17日に死亡したと説明した。
記事では「ラブカは原始的なサメの姿をとどめていて、生きた状態で見られることがほとんどない貴重な生物。水族館の関係者によると、熊野灘では約30年前にも見つかった例があるという」とその希少性を解説している。
「ラブカ」が死んだのは朝日のストロボ撮影のせい?
ところが記事配信の際、Twitter上で掲載した写真のラブカの目が光っていたことが問題になった。Twitterやネット掲示板では次のような批判が殺到した。
「深海魚にフラッシュを焚いたら死んでしまうだろう。どうなってるんだ」
「ただでさえ水族館はフラッシュ禁止が普通なのに、暗い深海に住む魚にフラッシュってアホかと」
「暗いと反射的にストロボ焚いてしまうのは報道カメラマンの悲しい性か。機材は1DX m2かD5なんだろうから、紙面写真程度なら高感度撮影で全然余裕なはずなんだが」
そして、まとめサイトで「朝日新聞、水族館の『生きた化石』の深海のサメにフラッシュを炊いてしまう。→その後死亡」などと取り上げられる事態になった。
マスコミ全般がストロボ、照明を使用か
だが、朝日新聞以外の全国紙や地元紙の記事中の写真でも、朝日新聞と同様に目がストロボに反射して光っている写真や、水槽の枠に光が反射しているように見えるものがあった。またインターネット上では、テレビ局のニュース映像でも、カメラクルーが持つ照明とみられるものが水槽の枠に写っていることが指摘されている。つまり朝日新聞だけではなく、多くのマスコミがラブカに強い光を当てていた可能性があるのだ。
ネット上でも、次のように議論を整理すべきだとの声も出始めている。
「ラブカが元々弱っていて近いうちに死んだだろう、という事と深海生物の撮影にフラッシュ使う事の妥当性、正当性は別の話なので切り分けて考えるべき」
「そもそもラブカって水族館で生きたままの展示ってさてれないし、古代魚で捕まえるのもレアケース。捕まった経緯も考えると恐らく元々あまり良い状態ではない形で水族館に来たと思われるので、フラッシュが死亡原因ではないと思うなぁ…」
「深海との環境変化に耐えられなかった」
結局、死因は何だったのか。串本海中水族園の広報担当者は次のように話す。
「メディア各社がフラッシュ撮影を行ったのは事実です。確かにストロボ撮影は深海魚には良くないといわれています。しかし、それが今回の直接死因につながるとは考えていません。もともと当館で保管飼育することになった際、長くても2~3日、1日もてばという状態でした。ラブカは水圧の変化に耐えられないと考えられているので、当館ではできる限りの環境で飼育・展示していましたが、残念です」
「良い写真・画を撮りたい」などと言って、事件現場やイベントなどでマスコミが無茶な場所取りやストロボ撮影をすることは今に始まったことではない。今回の件にしても、直接の死因につながったかどうかはわからないものの、被写体の生態に即した配慮をすべきだったのだろう。日ごろの配慮欠いた取材態度が、今回のような疑念と批判を巻き起こしてしまったのかもしれない。
(文=編集部)