「原則として」残業は禁止
だが本来、教員も労働者であって、放課後など所定労働時間以外の時間の使い方は教員の自由なのではないだろうか。
「確かに教員も労働者なので、始業時間から終業時間までの所定労働時間の勤務を義務づけられているだけであって就業時間後、つまり放課後などの時間はプライベートの時間として、何をするのかは本人の自由であるのが原則です。しかしながら、一定程度の残業については、使用者である学校がこれを命じることができますから、学校に残業を命じられた場合には、教員といえどもこれに従い、部活の顧問を担当せざるを得ません」(同)
では、教員が放課後に部活の顧問を担当することは残業として扱われ、教員は夜になるまで生徒達の部活動を見守っていなければならないのか。日本の労働法下では、残業命令は使用者に認められたかなり強い権限だ。ただ、通常の労働時間である授業時間が長時間となりすぎている場合や、部活の顧問として活動している時間が長時間になるといった長時間残業が当たり前に継続しているような場合には、労働者の健康を守るという観点から本来は残業命令を制限する必要がある。しかし浅野弁護士は、教員が置かれた状況の特殊性について次のように語る。
「『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)』という公立学校の教員に適用される特別な法律では、原則として残業が禁止されていますが、『臨時または緊急の場合』には残業命令が許されると定められています。学校側はこれをうまく利用して、事実上残業が無制限に行われ、さらには残業代も支払われていないという過酷な労働環境がつくり上げられているのです」(同)
このような過酷な労働環境に陥らないために、何か策はないのだろうか。
「考えられるパターンは2つです。ひとつ目は、教員になる前から部活の顧問を担当したくないという意思が固まっている場合です。この場合には、採用面接の段階で自分は部活の顧問をやりたくないということを学校側に伝え、そのことを録音、または書面など客観的な証拠として残しておき、採用されてから強制的に部活の顧問を担当させられそうになった場合に、これらの証拠を用いて拒否できます。2つ目は、すでに教員として学校で働いているうちに、部活の顧問を担当したくなくなった場合です。この場合は、健康状態を害するほどの長時間労働を強要されたときに限り拒否できると考えられます。そのような事態に陥ったときには、過重労働として裁判に訴えることも検討するべきでしょう」(同)
ひと昔前であれば、教員になって部活の顧問を担当し、熱血指導で生徒達を導くかっこいい先生という憧れ像もあっただろう。しかし、現在では自ら進んで部活の顧問を担当する教員が減ってきて、一切その種目に経験のない教員が顧問にならざるを得ない状況だ。そんな教員に対して、最近は保護者も注文が多く、指導方法について文句を言ってくるケースもある。これでは進んで部活の顧問を担当しようと考える先生はさらに減少し、負の連鎖は止まらなくなる。
行政は、このような教員のブラック労働問題に正面から向き合って、働きやすい労働環境を整える対策をとるべきなのではないだろうか。
(文=Legal Edition)
【取材協力】
浅野英之(あさの・ひでゆき)弁護士
浅野総合法律事務所 代表弁護士
労働問題・人事労務を専門的に扱う法律事務所での勤務を経て、四谷にて現在の事務所を設立、代表弁護士として活躍中。
労働問題を中心に多数の企業の顧問を務めるほか、離婚・交通事故・刑事事件といった個人のお客様のお悩み解決も得意とする。
労働事件は、労働者・使用者問わず、解決実績を豊富に有する。