補助金が返還された事実を記者会見で示す
元森友学園理事長・籠池泰典氏と妻・諄子氏の刑事裁判は昨年10月結審していたが、両被告は2月10日に大阪地方裁判所の記者クラブで記者会見を行い、籠池弁護団から「弁論再開申し立て及び証拠取り調べ再開請求書」を1月29日に提出したことを発表した。
裁判の現状としては、検察側の求刑と弁護側の弁論が出され、双方の主張は締め切られ、判決予定日である2月19日を待つのみとなっていた。弁論再開請求とは、一旦は審理が終了しているにもかかわらず、審理の再開を請求するもので、異例ともいえる請求が弁護団から出された格好となった。
特捜部は、森友学園は国のサステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」の補助金について全額返却した一方、大阪府と大阪市からの補助金については返していないという認識を示していた。会見で籠池氏は、この検察の事実認識に誤りがあり、大阪府からの補助金は一部、大阪市からのものは予定額を返還済みだと発表した。その証拠資料として、森友学園管財人の疋田淳氏が作成した大阪地裁宛ての回答書(写真2)や「総勘定元帳」(写真3)が示された。(※1)。
森友学園は17年3月に経営難から民事再生手続きが取られ、籠池氏の個人財産や債権者への支払いなどの一切が、管財人の管理下で行われることになり、この回答書は管財人が19年6月21日に作成していた。そこには各再生権者(債権者)に対して各60万円を18年3月7日に支払ったとの記載がある。つまり、大阪府・市に返済が行われたという、特捜部が論告求刑で書いていた内容とは異なる事実が示されていた。
裁判所は弁論再開請求を受けて、検察に連絡し、検察は疋田管財人に問い合わせ、調査中であり、検察の見解を待っている状況にあるという。
このように、裁判所による弁論再開は実質的に始まっている。籠池夫妻は、この事態を受けて検察の求刑の見直し、特に諄子氏の無実を強く求めると語った。
裁判で検察側は夫婦共に懲役7年の求刑を行い、判決は、その求刑に基づき出される予定であったが、異例の弁論再開の申し立てに対して、裁判所が動きだしたというのは、その申し立てが裁判の核心に触れると判断したからであろう。
検察の大失態
検察は論告求刑の結びの中で、大阪府・市から詐取されたとする被害総額について、「弁済がされていない上、弁済の見込みもなく、酌むべき事情を考慮しても、その犯行態様の悪質性、罪質、結果の重大性などその行為の重大性に見合った処罰を受けさせるのが相当であることは論を待たない」「被告人両名を厳罰に処罰しなければ、(略)弁済されていない(略)詐欺事案の実質的被害者である大阪府民及び大阪市民も救われない」と主張していた。補助金詐欺罪の最高刑が5年のなかで懲役7年という求刑の根拠が、大阪府・市から詐取した補助金詐取については弁済(返済)されていないというものであった。今回、その事実が誤認だったと籠池氏は指摘した。
今日まで検察の論告求刑に書かれたことが虚偽の事実であることに籠池氏が気が付かなかったのは、300日の勾留やその後の保釈条件で事実を知る機会を奪われていたためである。森友学園の理事長は17年3月に籠池泰典氏から娘の町浪氏に交代し、泰典氏と諄子氏は17年7月末に逮捕・勾留された後に家族とも接見禁止となり、保釈後も保釈条件として家族との接触禁止が続き、詐取したとされる補助金の一部が返還されている事実を確認する機会がなかった。昨年の結審後にようやく町浪氏に会うことが許され、泰典氏は返還の事実を知った。
発表によると、現理事長の町浪氏が「平成29年度総勘定元帳」(写真3)の写しを入手し、泰典氏がそこに大阪府・市に対して弁済が行われていたことを確認し(※2)、今回の弁論再開の申し立てとなった。この補助金詐取に関しては、籠池夫妻がサステナブル補助金詐取で逮捕、勾留された後の2017年9月に追加的に起訴されている。したがって、籠池夫妻は今日まで弁済の事実を掴むことも反論することもできなかった。
裁判所からの連絡によって検察は管財人への調査を始めたということだが、やはり白々しさはぬぐえない。事実経過を見ると2つの点で疑問を感じる。まず第1に、森友学園が返済したのは18年3月である。検察はその事実を調べ、つかむことなく「弁済はない」としたのか。第2に、疋田管財人から裁判所に出された回答書は、19年6月に検察も受け取っており、論告求刑(19年10月)前に事実をわかっていたはずである。
以上より、単なる失態ではなく、検察は意識的に事実と180度違うことを論告求刑に書き、被告の情状酌量に蓋をした疑いが濃厚である。虚偽の事実で被告人の罪を重くするという違法な求刑といえ、刑事裁判では許されないことである。どちらにせよ公訴棄却が相当となるのではないか。
事実誤認は2回目
本件裁判で検察による論告求刑における間違いは、ほかにもある。サステナブル補助金の容疑内容と詐取金額にかかわる誤認である。
すでに本件は19年12月25日に当サイトで報告しているが、検察がサステナブル補助金の補助要項を読み誤り、容疑内容も詐取金額も根拠なく起訴理由とした点が問題である。検察の解釈は、事業採択時点で実施設計に取り掛かっていれば補助金を受領できないというものだった。森友学園は15年3月に実施設計を済ませ、同年7月に補助金申請を行い、同年9月に採択されていた。したがって、そもそも補助金の受領資格がなかったため、受領した約5644万円全額を詐取したというのが検察の論告求刑での主張であった。
しかし実際の募集要項では、「事業の採択の時点で既に着手している実施設計及び建設工事等は原則として対象にならない」となっており、実施設計と建設工事への着手を分け、実施設計に着手していても、受領資格がなかったのは「調査設計計画費」の補助金のみであった。そして着工は15年12月であったため、「建設工事費」への補助金受領資格はあった。そのため、実際に森友学園が詐取した額は、約3300万円少ない約2323万円だった。
起訴状の容疑内容は間違っており、しかも詐取金額も半分以下であった。当然これについても弁論再開の対象になると考えられる。
夫婦共同罪の酷さの裏に潜む真実
検察は補助金詐取の共謀者としてキアラ建設研究機関と藤原工業株式会社の2事業者を挙げていた。両社は校舎建設予定地のごみ撤去に8億円かかる証拠とされた試掘写真を作成していた。ところが検察は、この2事業者の逮捕どころか捜査さえ行わず、籠池夫妻のみを起訴した。その時点で、検察は事件の真相解明に迫る気がなかったといえる。さらに、森友学園の理事長だった泰典氏だけでなく、妻の諄子氏も共に300日も勾留し、籠池夫妻の有罪立証にあたっては、この2事業者の証言がカギとなっている。本件事件は司法取引制度施行前のものであり、籠池氏の有罪立証に協力した事業者を免罪するのは不当である。
このように、本件裁判では、検察は大阪府・市の補助金については返還事実を隠して求刑し、詐取容疑を間違え、その金額を倍増していた。そして共謀した事業者を免罪し、ひたすら籠池夫妻に罪を着せ、重罪での罰則を意図しているように見える。よって、検察は事実誤認に基づく論告求刑を取り消し、謝罪し、責任を取る必要があるのではないか。
もし民間企業が大きな不祥事を起こせば、社長が会見で釈明・謝罪を行うが、今回の事案は大阪地検や特捜部のトップが謝罪すべき大失態といえる。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)