【森友】財務省と検察がひた隠す「赤木ファイル」の存在…自殺した財務省職員が克明に記録
森友事件で自殺した元財務省職員の赤木俊夫さんの妻(昌子さん:仮称)が、赤木さんの手記を公表し、国と財務省の佐川宣寿元理財局長を提訴した。この問題をきっかけに、森友・加計問題から黒川弘務検事長の定年延長問題へと続く安倍政権による政治の私物化への批判が再び噴出している。公文書の改ざんを一人の職員に押し付けて自殺に追いやった責任を問う声や、残された妻の哀しみに向き合うことのない行政はいらないという声が、一人ひとりの国民を動かし始めたように見える。この動きの先を探ってみた。
「調査報告書」は、赤木さんの死に触れず
森友決裁文書の不法な改ざんを強要され、精神を病み、自殺に追い込まれた赤木さんの妻の訴えを報じた「週刊文春」(文藝春秋)は53万部が完売したという。昌子さんの民事訴訟は、「愛する亡俊夫が、なぜ自殺に追い込まれたのか」という真実を知り、赤木さんが自殺の直前に手記を残した願いに基づき改ざんの実態を公にしたいということが目的だった。
発売されたその日(3月18日)のうちに野党は「森友問題再検証チーム」を結成し、19日の参議総務委員会では国民民主党の森本真治氏の再調査を求める質問に、安倍晋三首相は「麻生太郎財務相の下で事実関係を徹底的に明らかにした。検察もすでに捜査を行い結論が出ている」と答え、麻生財務相も記者会見で「経過は調査報告書で明らかにした。それに尽きる」「手記と報告書で、事実関係に大きな乖離はない」と述べ、両名とも再調査を拒否した。
しかし調査報告書(※1)に書かれた事実関係には、今回の手記と大きな乖離があった。そもそもこの調査報告書には、赤木さんが自殺した事実すら書かれていない。当然哀悼の記述や一人の職員を自殺に追い込んだ経過や反省も書かれていない。それどころか、赤木さんについて「配下職員」としたうえで、次のようなおぞましい記述が続く。
「近畿財務局の統括国有財産管理官の配下職員は、そもそも改ざんを行うことへの強い抵抗感があったこともあり、本省理財局からの度重なる指示に強く反発し、(略)近畿財務局においては(略)配下職員はこれ以上作業に関与させないこととしつつ」「本省理財局が、国会対応の観点から作業を行うならば、一定の協力を行うものと整理された」(P.27~28)
「強い抵抗感」「度重なる指示に強く反発」と、赤木さんについて冷たく突き放すような記述の後、「これ以上関与させないことにした」としている。ここに書かれているのは、「不法な仕事」を押し付けられ、精神を病むことになり、休職、そして最後には死に追いやられた職員が辿った事実経過ではない。まるで彼に押し付けられた仕事が、誰もがやらなければならない仕事を彼だけがさぼったような記述が書かれていた。赤木さんが残した手記によって、事実を再構成する必要がある。
安倍・麻生両名はこの調査報告書の内容を知らないまま、手記と調査報告書には乖離はないと軽率に発言し、昌子さんの要請を頭から拒否しているといえる。
再検証チーム座長・川内博史議員に聞く
再検証チームが3月26日に行われた3回目の合同ヒアリングの直後、座長の川内博史議員(立憲民主党)を取材した。
――再検証チームをどのような思いで立ち上げましたか?
川内氏「赤木さんの手記と遺書を読ませていただき、大きな衝撃を受けました。そもそも自死をされたということで、相当なプレッシャーを受けていたと皆は感じていたと思いますが、手記で生々しく紹介され、計り知れない衝撃を受けました。赤木さんの心中を思う時、手記と遺書は、真実を明らかにしてほしいという赤木さんの魂の叫びであると思います。財務省や政府は、真相を隠ぺいすると決意していると思いますが、私たちはその壁を破って赤木さんの思いに応えていかなければならないと考えました。」
――再検証チームは何人ぐらいで立ち上げられましたか?
川内氏「野党全体で立ち上げましたが、十数名が中心で動いています。」
――安倍首相や麻生財務相は、再調査は拒否すると早々と宣言し、問題が広がることへの火消しにやっきになっていますね、
川内氏「おふたりは、もともと真相を隠すという立ち位置です。なぜなら18年6月の財務省の調査報告書を発表した記者会見で、麻生大臣は記者会見で『なぜ文書改ざんが行われたのかのかが書かれていませんね』という質問に『それがわかれば苦労せんよ』と答え、真相が解明されていないことを自白しています。今回の手記が発表され、核心に迫る部分がわかった段階で、本来は再調査に入ると自ら言うべきだったのです。『新しい事実はない』『齟齬はない』というのは真相が明らかになると困るからでしょう」
――今回3回目の野党ヒアリングを経て、わかったことがありますか?
川内氏「書き換えを命じられた経過を詳細に綴った赤木ファイルが存在することが、ほぼわかりました。財務省理財局が近畿財務局に書き換え案を指示し、これまで一切が公表されていなかった、隠し持ったものが、あるということです。なぜあってはいけない文書改ざんが行われたのか、あってはいけない国有財産の値引きがあり、そこに大変な影響を行使した政治家の存在があり、だから改ざんが行われたという真実に近づく赤木さんの記録です」
――森友・加計問題から黒川検事長の定年延長問題を含め、安倍一強体制の問題が目立ちますが。
川内氏「あまりにも権力が大きすぎて、政治や行政、司法までが機能不全に陥りつつあると思います。世の中が一人の権力者の思いのままに動いてしまうことの問題です。しかし官僚は忖度するが、ウイルスは忖度しません。新型コロナウイルス問題でミスを犯しつつあるのではと思っていますが、権力の集中は世の中の危機をもたらす。そのことが森友・加計問題、黒川検事長問題で明らかになってきたと思います」
再燃した国会での追及に期待したい。
昌子さんが開いた真実に向けての扉
赤木さんの妻・昌子さんが提案した第三者委員会の設立と再調査の実施を求めるインターネット署名「change.org」は、1週間で約29万の署名を超えた。安倍首相と麻生財務相の心ない拒否発言は、逆に賛同者数を増やすことに働いたともいえる。「週刊文春」は翌週の4月2日号でも、大阪日日新聞記者の相澤冬樹氏がこの問題を報告した。赤木さんの直接の上司だった近畿財務局の元池田靖統括官が「8億円値引きに問題がある」と森友問題の核心に触れる点を語り、赤木さんが自身への指示内容を克明に記録したファイルをつくり、それを検察に提出していたことを昌子さんは明かした。以下、「」は「週刊文春」(4月2日号)からの引用。
「森友学園は、16年に評価額約9億5600万円の国有地を約1億3400万円で購入している。3メートル以深の地中にごみが見つかったため、その撤去費用として約8億2000万円を値引きしたというのがこれまでの財務省の説明だ」
そして記事によれば、池田氏は次のように語っていたという。
「地下埋設物(ごみ)がどれだけ埋まっていて、どれだけの費用がかかってどれだけの売却価格から引かなければならないかという事を自分たちは最後まで調べようと努力した」
「我々(近畿財務局)には(予算を取ってきて調査する)権限がない。これ(ごみが新たに見つかったこと)は完全に国の瑕疵なので、それが原因で小学校が開設できなかった時には、損害賠償額が膨大になる」
「だから一定の妥当性のある価格を提示して、それで相手が納得すれば一番丸く収まる(略)航空局が持ってきたのが8億円だった」
また、記事には次のようにも書かれている。
「ここで昌子さんが突っ込んだ」「夫が『航空局にだまされたんや』って言ってたんです。それがそのことなんですか?」
「これに池田氏は、思わず本音を漏らした」
「この8億円の算出に問題があるわけなんです。確実に撤去する費用が8億円になるという確証が取れてないんです」
「池田氏は、昌子さんに安倍首相や明恵夫人をはじめ政治家の影響で売却額を減額した」ことはないと「強調」し、「納得できない昌子さんは『じゃ誰が悪いのですか?』と問いかけた」という。
再検証チームに課せられた課題
池田氏は、当時国が貸し付け契約から売却契約に至る経過のなかで、近畿財務局の実務の上で中心にいた担当者である。「週刊文春」での発言の次の2点は、極めて重要な意味を持つ。
(1)財務省が8億円の値引きは国交省大阪航空局に任せ、大阪航空局が決めたとの話である。これは本当なのであろうか。いずれにせよ森友事件の核心点である8億円値引きには、財務省に加え、国交省も関与していたという重要な発言である。格安の売却や改ざんの行為には、両省が関与していたこと、両省ににらみが聞く政治家の関与が不可欠である事がわかった。
(2)もう一点、値引き金額の決め方である。ここでの池田氏の発言では、「ごみが新たに見つかった」が、「新たに見つかったのは、完全に国の瑕疵(ミス)なので」「損害賠償問題」として森友学園と話し合いの上で「一定の妥当性のある価格」で決めたということになっている。つまり、埋設ごみの量や撤去費用に関係なく決めたとなっている。
しかし財務省の調査報告書(※1)では、「不動産鑑定価格による地下埋設物の撤去費用を差し引いた価格で売り払うことにした」と報告されている。調査報告書では、差し引いた価格8億円は「撤去費用」だとしている。
このように、赤木さんの手記や遺書、そして昌子さんが聞き取った内容を見ると、明らかに調査報告書とは核心点において大きな齟齬がある。なお池田氏は、値引き額の算定自体は航空局が行い、「我々(近畿財務局)には(予算を取ってきて調査する)権限がない」と言っている。
しかし16年3月11日、森友学園から校舎のくい打ち工事中に、地下深部から新たなごみが見つかったとされ、その後、国は調査を行ったが、近畿財務局は3月30日、大阪航空局は4月5日に試掘調査し、それぞれ「17枚試掘写真資料」「21枚試掘写真資料」を出している。写真3は、近畿財務局が作成した17枚の写真資料であるが、写真4はその内の1枚で資料(10)には当の池田氏が写っている。権限がないどころか、実際に試掘調査を行いその写真の中に当人が写っているのである。
川内議員のインタビューにもあったが、その池田氏が語った赤木ファイルは検察に渡されたが、すでに不起訴になって用済みになったはずの赤木ファイルは、なぜ遺族に返還されていないのか。「検察が握りつぶした極秘ファイル」(週刊文春)の問題や、抵抗する赤木さんだけを残して人事異動が行われた問題など、真相究明しなければならない問題が残っている。第三者による調査委員会の調査が待たれる。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
※1:「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」(財務省/16年6月4日作成)