家計でいえば、借金をする金利よりも給料の伸び率のほうが大きいので、年数がたてば新たな借金をすることがなくなることを意味する。既存の借金もやがて減少していくだろう。名目金利と名目GDP成長率だけに原則注目すればいいので、PBが黒字だろうが赤字だろうが財政危機には関係ない。
つまり政府が目標としている「20年度のPB黒字化」は、それ自体は大した意味を持たないのである。むしろこの意味の乏しい目標を、マスコミや増税に加担する人々が固執することの弊害のほうが深刻である。
なぜなら、先ほどのドーマー命題のカギになるのは、名目GDP成長率を上げる政策、つまりデフレを脱却する政策(金融緩和政策と財政拡張政策)である。ところが、14年度からの消費増税による経済減速のために、名目GDP成長率は大きく下振れしてしまった。もちろんPBは赤字のままなので、増税勢力の人たちは、これを問題視してさらなる増税を主張している。それが10%への引き上げの根拠となっている。
もちろん、また増税すればさらに経済が減速して税収が落ち込み、PBの黒字化は(それ自体は意味がないにせよ)さらに遅れるので、また増税を要求するだろう。増税を重ねればさらに経済低迷で税収不足し、さらに増税、という悪循環しか起こらない。
対して名目GDP成長率を高めていけば、ドーマー命題から財政危機は回避できるし、また税収増が実現できるので、PBにあえて注目してもその黒字化は早期に達成される。ちなみに高橋洋一嘉悦大学教授は、増税なしでデフレ脱却をしたケースのほうが、増税ありのケースよりもPBの黒字化の実現スピードが早いことを実証している(『数字・データ・統計的に正しい日本の針路』<高橋洋一/講談社>第6章より)。
このように、そもそもPBの20年度黒字化実現が財政規律維持に不可欠であると鵜呑みにするほうがおかしいのであるが、さらにあえてこの間違った財政規律の思想に則ったとしても、さらなる消費増税こそが財政規律を破綻させる可能性が高いこともおわかりいただけるだろう。
「1000兆円を超える借金」問題
次に「1000兆円を超える借金」問題である。これも端的に誤解を誘発する悪い議論の典型である。すでに財政危機の回避方法をみたので、この「1000兆円を超える借金」自体にも大して問題があるわけではないことは、賢明な読者にはおわかりだろう。