今年1月、台湾総統選挙で当選した民主進歩党の蔡英文氏。中国国民党の馬英九政権から8年ぶりの政権交代となると同時に、初の女性総統の誕生となった。そして、5月20日、蔡氏は台北市内の総統府で宣誓を行い、第14代総統に就任した。
親中派の前政権と違い、蔡氏は台湾独立志向で親日や親米の立場を取るといわれている。一方、中国の習近平政権は「ひとつの中国」をうたっており、今後の中台関係のなりゆきが注目されるところだ。
蔡氏率いる台湾と中国、それから日本の関係は、これからどうなっていくのか。中国事情に詳しく、今年2月に『SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!』(イースト・プレス)を上梓したジャーナリストの福島香織氏に聞いた。
台湾の姿勢に不満を募らせる中国
–蔡氏の総統就任に合わせて台北に行かれていたそうですが、現地はどんな感じだったのでしょうか。
福島香織氏(以下、福島) 59カ国(国交があるのは22カ国)から約700人の賓客が来たのですが、正式な「国家」ではない国のトップの就任に、これだけの数の要人が来るのはすごいことです。特に、日本からは252人が出席、アメリカは5人ですが、東アジアの安全保障の専門家や元外交官などの重要人物を送り込んできており、台湾を重視する姿勢がうかがえます。
就任演説に関していえば、蔡氏はかなり妥協したという見方ができます。「(中台間で「ひとつの中国」の原則について合意したとされる)92共識」や「ひとつの中国」という言葉をうまく避けつつも、中国の顔を立てました。一方で、蔡氏は外国の賓客に対して「中華民国政府」とは言わず、「台湾的政府」という言い方をしています。
–バランスを取りながら、しっかりと台湾の存在感も打ち出しているという感じですね。
福島 最近、台湾では「天然独」という言葉があります。台湾は自国の憲法も通貨も軍隊も持っていて、現実的には独立した国家じゃないか、という意味です。国連には加盟しておらず、日米とも正式には国交はないけれど、国際社会は事実上の国家と認識している。それが、天然独の真意です。
蔡氏もかつてこの言葉を使っており、この考え方を黙認しているかたちです。つまり、変えるべきは台湾の姿勢ではなく、国際社会だということです。そして、総統就任式を見る限り、国際社会の様相は確実に変わってきています。
『SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!』 安保法制の是非に揺れた二〇一五年秋、一躍注目を浴びた明治学院大学生・奥田愛基率いる学生デモ団体「SEALDs」の本質と運動体としての脆弱さ、それ故に受け入られた社会変革の可能性は、ひと夏のメディアの消耗品に終わるか、否か。己の人生を擲っても巨大な中国共産党権力と闘い、成果をあげた台湾の「ひまわり革命」。植民地化に異議を唱える香港「雨傘革命」のリーダー無き戦略性。中国問題に健筆をふるうジャーナリスト福島香織が東アジア若者デモの深層を現地取材! その構造問題を浮き彫りにする国際政治レポート!