中国、不動産バブルのからくり
–肝心の中国経済は、どうなのでしょうか。
福島 中国の場合、そもそもGDPなどの数字が信用できない問題はありますが、実際の経済成長率は5%、それでも「盛っている」という見方が大半です。ただ、そもそもGDPが高いことと経済が回っているかどうかは別の問題です。
例えば、今中国では不動産価格が急激に上がっているのですが、その仕組みを見ると、市場の要求に応じて上がっているという感じではありません。銀行は、バブルを引き締めるために不動産デベロッパーにはあまりお金を貸さないようにしていますが、ゴーストタウンが問題になっているように空き家が多いため、それを処理しないといけないという問題もあります。
そのため、家を買う人に対しては、銀行は頭金を優遇するなど、比較的簡単に融資をします。銀行も貸し出しのノルマがあるから、お金を借りてくれる人がいるのはありがたいわけです。
デベロッパーは、適当に建てた手抜きマンションを高い値段で売るのですが、購入者には2割ぐらいをキックバックします。購入者はそれにつられて家を買い、銀行は「ローンが焦げ付いても、担保(家)を回収できるからいいや」と思っている。
デベロッパーも銀行もグルになるかたちでノルマを消化し、都合の悪いことは先延ばしにするようなからくりで経済を動かしているわけです。だから、深センや広州、北京などでは不動産が異常に値上がりしているのですが、正常な需要と供給によるものではありません。
台湾、香港の若者たちが中国に抱く危機感
–馬政権は、そんな中国にすり寄りすぎて、国民から愛想をつかされたかたちです。
福島 今回の政権交代は、14年3月から始まった「ひまわり学生運動」に端を発します。これは、台湾の学生と市民が日本の国会議事堂にあたる立法院を占拠した社会運動です。
詳しくは拙著『SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!』を読んでいただきたいのですが、時を同じくして、香港でも若者を中心とした「雨傘革命」がありました。こちらは、「真の普通選挙」を求める反政府デモで、結果的には「失敗」と見る向きもあるものの、この運動を主導した学生のなかからは次の香港政治を担う人材が出てくると思います。台湾の運動についても同様です。
この2つの国の若者たちは、中国という大きな国に対する脅威を感じ、中国式のグローバリズムに飲み込まれないように考えています。実際、台湾では政権交代が実現したわけですし、若い人たちが声を上げるというのは、世の中を変える力があると思います。
(構成=石丸かずみ/ノンフィクションライター)
『SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!』 安保法制の是非に揺れた二〇一五年秋、一躍注目を浴びた明治学院大学生・奥田愛基率いる学生デモ団体「SEALDs」の本質と運動体としての脆弱さ、それ故に受け入られた社会変革の可能性は、ひと夏のメディアの消耗品に終わるか、否か。己の人生を擲っても巨大な中国共産党権力と闘い、成果をあげた台湾の「ひまわり革命」。植民地化に異議を唱える香港「雨傘革命」のリーダー無き戦略性。中国問題に健筆をふるうジャーナリスト福島香織が東アジア若者デモの深層を現地取材! その構造問題を浮き彫りにする国際政治レポート!