再開発が進み、欧米やアジアからの外国人観光客の姿が目立つようになった新宿・歌舞伎町。以前の危ないイメージは払拭しつつあるが、今でもぼったくり事件が多発しており、地方からの観光客は注意が必要な街であることに変わりはない。
夏休みシーズンを前に、最近の歌舞伎町のぼったくり事情や手口、いざという時の対処法などをレポートする。
メニューの「隠しページ」に法外な料金
「東洋一の歓楽街」と呼ばれ、アジア人観光客も大量に訪れる歌舞伎町。大規模な再開発計画が着々と進んでおり、新たなランドマークとなる「ゴジラヘッド」を擁する新宿東宝ビルをはじめとした新たなビルや外国人観光客向けの飲食店などが立ち並ぶ姿は、かつての猥雑なイメージを過去のものにしようとしている。
しかし、そんな街並みの雰囲気を一変させるほどの大音量で流れ続けているのが、「ぼったくり」に注意を促すアナウンスだ。「客引きには絶対についていかないように」と強い口調で警告するテープの音声は、すっかり歌舞伎町の風物詩となっており、随所に掲げられた「ぼったくり注意」の看板とともに、戒厳令のような物々しいムードを醸し出している。
客引きに「5000円ポッキリ」などと誘われてキャバクラなどに入店し、1時間ほどお酒を飲んだだけで数十万円も請求されるぼったくりは、以前から横行している悪質行為だ。2000年に「ぼったくり防止条例」が施行されたが、取り締まりが甘く、ここ数年は逆に被害が増大し、手口もより悪質になっていた。
「昨年あたりまで、週末になると、交番の前で『払え』『払わない』の押し問答を続ける店員と客が10組ぐらいたまっていましたからね。客と店員がモメまくっているサマを、『民事不介入』の原則でただ眺め続けるだけの警察官といい、なんとも異様な空間でした」
そう語るのは、歌舞伎町で働く飲食店員だ。
ぼったくり防止条例は、入店時に料金システムを説明すること、店内でも常にメニューと料金を提示することを義務づけている。歌舞伎町の裏事情に詳しいライターが語る。
「ぼったくり店は、この条例をくぐり抜ける手口を次々と編み出してきました。例えば、入店時からICレコーダーで録音しておき、客がいないところで『入会金10万円』などと吹き込んでおく、ということもあった。さらに、メニューに強力な磁石でくっつけた隠しページを仕込んでおいて、そこに法外なドリンク料金やサービスチャージ料金を明記していた店もありましたね」
ぼったくり被害に遭っても警察は頼りにならず、弁護士を呼ぶにも費用が数十万円かかる。そこで、50万円の請求額を20万円くらいで「手打ち」にし、客は泣き寝入り、というパターンが多かったのだが、昨年、ついに警察も重い腰を上げた。15年6月に一斉摘発が行われ、1カ月ほどの間に10店舗以上のぼったくり店を閉店に追い込んだのである。
「摘発は今年に入っても続いていて、歌舞伎町では、ぼったくりはもうそれほどうまみのあるシノギではなくなっています。それでも逮捕覚悟で続けている店はあるし、名古屋や北海道から遠征してきて、1~2カ月ほど荒稼ぎして逃げるグループもあります。以前のような法のすき間を狙うタイプではなく、完全な犯罪者集団なので、かなり荒っぽい手口も使うようです」(同)
ぼったくりが「料金システムや価格に対する店側と客の見解の相違」なら民事となるため、警察は基本的に不介入だ。しかし、暴行や恐喝、さらには監禁行為などが行われれば刑事事件である。早急に警察に連絡して、被害届を出すなどの対処をするのが原則だ。
居酒屋などの「プチぼったくり」が急増!
違法な高額ぼったくり店が地下に潜ったことで、今歌舞伎町にはびこっているのが、居酒屋や飲食店による「プチぼったくり」だという。
「客引きの『完全個室で、つまみ5品つき2000円で飲み放題』などという誘い文句に釣られて行ってみると、狭い個室に詰め込まれ、飲み物をオーダーしてもなかなか持ってこない。つまみは質、量ともに貧弱で、まさに詐欺。さらにワンオーダー制だったり、お通し代や席料、サービス料などが上乗せされたりして、結局2000円じゃ収まらない。客引きの話と違うので立派なぼったくりなのですが、この金額だとモメる客もほとんどいないのが実情です」(前出の飲食店員)
そもそも、歌舞伎町では客引き行為が禁止されている。自店舗の前で声をかけたり、チラシを配ったりする程度は黙認されているが、それ以外の離れた場所で、メニューをくるくる回しながら客を物色しているような客引きには、ついていかないほうが賢明だろう。
さらに最近は、急増するアジア人観光客への詐欺行為も横行しているという。前出のライターが語る。
「風俗に興味がありそうなアジア人観光客に近づいて、女の子の写真を見せてサービスを説明。その場で1~5万円ほどの料金を受け取り、店に連絡するふりをして、客には店の場所が書かれた地図を手渡すのです。もちろん、地図はデタラメで、そんな店は存在しない。地図を片手に焦った顔で歌舞伎町を徘徊している中国人観光客がたくさんいますよ」
しかも、驚くことに、同様の手口で騙される日本人も少なくないという。特に狙われやすいのが、地方から来た観光客や出張組のサラリーマン。歌舞伎町で遊び慣れていない人たちは、客引きにとって“カモ”でしかないのだ。
「客引きは毎日現場に立っていますから、歌舞伎町の初心者かどうかぐらいはすぐに見抜きます。そういう客は取り合いになるので、客引きは一刻も早く声をかけようとします。私自身が歌舞伎町を歩いていて、こっちにまっすぐ早足で近寄ってくるような客引きがいたら、目も合わせないでかわしますね。だって、向こうから『カモだ!』と認定されているようなものですから」(前出のライター)
ある種の危険性や怪しげな部分も含めて、「歌舞伎町」の魅力であることは間違いない。とはいえ、歌舞伎町で遊ぶ以上、いざという時には誰にも頼らず、自衛できるぐらいの気持ちや知識を持っておくのが賢明だろう。
(文=ソマリキヨシロウ/清談社)