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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国、習近平主席による李首相“潰し”先鋭化…「露店経済」推進めぐり権力闘争激化

文=相馬勝/ジャーナリスト
中国、習近平主席による李首相“潰し”先鋭化…「露店経済」推進めぐり権力闘争激化の画像1
「Getty Images」より

 2年後に迫っている2022年秋の中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)の最高指導部人事をめぐって、中国の習近平国家主席と李克強首相の権力闘争が激化している。李氏が5月下旬の全国人民代表大会(全人代=日本の国会に相当)で打ち出した失業対策である雇用推進計画の中核となる「露店経済」が習近平派の最高幹部らによって否定され、店晒しになる可能性が出てきたのだ。

 中国では新型コロナウイルスの感染拡大で、小売業者やレストラン経営などの個人事業主らが失業状態になっており、今年2月から4月の3カ月で失業率は6%と発表されているが、実際には20%を超えており、その数は7000万人に及ぶとの見通しも出ているほどだ。

 すでに、北京や上海などでは屋台や路上での小売業が警察に取り締まられており、民衆と衝突して負傷者が多数出ているとの情報もあり、今後も全国的に大きな騒乱の種になりかねない状況だ。

「露店経済」活性化で10万人の雇用創出

 李氏は5月28日、全人代閉会後の記者会見で「月収千元(約1万5000円)の中国国民は6億人いる」とし、「今年は雇用問題が最重要課題」との考えを示した。そのうえで、四川省成都市の屋台などを主とした「露店経済」に触れて、新型コロナウイルスの感染拡大によって失業した人々を救済するために、3万6000台の屋台や路上での個人営業などによる「露店経済」の活性化によって10万人の雇用を創出したと激賞した。

 さらに李氏は6月1日、山東省煙台市を訪問し、ある屋台に立ち寄り、「露天商や小さな店は重要な雇用源であり、中国の活気に満ちた生活と活力の象徴である」と指摘し、屋台などでの営業を奨励した。この動きはたちまち全国各地に広がり、屋台を原則禁止していた上海市政府は道端の小さい屋台は「罰則を免除される」というガイドラインを発表。陝西省の省都・西安市も厳しい禁止措置を取り消し、屋台や路上の個人営業店は特定の時間と場所に設定することが許可されることになった。江西省の九江市でも町内会の責任者が露店商に連絡し、再び路上で活動を開始するよう奨励するよう求めたとされる。

 しかし、それから3日後の4日、中国共産党中央宣伝部は「党上層部の意向により」各メディアに「露店経済」について報じることを禁止し、ホームページ上などの露店経済に関する記事をすべて削除するよう指示したという。党中央宣伝部のトップの王滬寧・党中央政治局常務委員は習氏の信頼が深い最側近で、習氏の懐刀として知られているだけに、李氏の「露店経済潰し」は習氏直々の命令といってもよいだろう。

 右に倣えとばかり、北京市政府は6日、屋台などの露店経済は「首都のイメージを損なう」と批判。北京市政府から町の管理を任された町内会組織を束ねる「城市管理行政執法局(城管)」は、露店商や路上取引などの「違法行為」への取り締まりを強化すると発表した。北京市のトップ蔡奇・党委書記は習主席の側近として知られる。

 翌7日付けの北京市党委機関紙「北京日報」は露店経済を完全否定する記事を掲載し、「露店経済は首都・北京のイメージや中国のイメージを損なうもので、質の高い経済発展には有害だ」と強調。さらに、中国国営の中央テレビ局(CCTV)も同日、「露店経済、がむしゃらにやってはいけない」と題した社説で、「がむしゃらにやりだすと、長年の都市建設の成果が台無しになってしまう」と指摘した。

 ネット上では、スイカ販売の露店商が治安要員から暴力を受ける動画が拡散されている。移動販売車の製造・販売元の五菱汽車集団の株価は3日には、前日の3倍以上に高騰したが、その後、9日には3日の株価の30%以上も下落してしまった。

習近平が狙う「終身皇帝」

 これらの政策の急変は習氏の指図であることは明白だが、それではなぜ習氏は首相職にある李氏を目の敵にするのか。通常ならば、党のトップである習氏は、党の政策を具体化する最高責任者である李氏の職権をうまく機能させれば、自身の成果にもつながるはずだ。しかし、習氏がそうせずに、李氏の追い落としを図るのは、李氏が習氏に次ぐ党内ナンバー2の実力者であることと密接に関係しているのだ。

 これまでの党の慣例からすると、習氏は国家主席を2期10年務めた時点で、引退しなければならない。これは憲法に規定されていたが、習氏は一昨年(18年)3月の全人代で憲法を改正して、国家主席の任期の規定を撤廃してしまったのだ。これにより、習氏は国家主席を3期以上、理論上では死亡するまで続けることが可能となった。つまり「終身皇帝」ならぬ「終身主席」だ。

 しかし、これを拒むとすれば、党最高指導部のチャイナセブンといわれる党中央政治局常務委員のなかでもっと若い李氏しかいない。なぜならば、李氏以外の、習氏を含む6人の常務委員は68歳を超えることになり、これまでの慣例で常務委員を降りなければならないからだ。李氏は第20回党大会の時点で67歳と引退年齢には達していないだけに、党最高指導部の常務委員会に残留可能となる。

 実は、習氏の終身主席については、憲法上は可能でも、李氏と親しい胡錦濤元主席や江沢民元主席、朱鎔基元首相らが反対していると伝えられるだけに、習氏は自身の最高指導者としての地位を守るために、李氏が邪魔で仕方がないのは明白だ。

 さらに、李氏の出身母体である中国共産主義青年団(共青団)閥を中心に、習氏が推進する対米強硬路線や今回の新型コロナウイルス対策などへの不満の声が根強くあり、習氏を糾弾する動きが表面化していることも習氏をいら立たせており、その分、李氏への風当たりも強くなっている理由となっているだけに、習氏と李氏の熾烈な権力闘争は22年秋まで続くのは間違いないところだ。

(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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