鹿児島県知事選(7月12日投開票)が25日、告示された。前回の知事選で初当選した現職の三反園訓氏のほか、前職の伊藤祐一郎氏、元九州経済産業局長の塩田康一氏など全部で7人が立候補した。
「脱原発」を掲げ野党の支援で4年前に初当選した三反園氏は、自民と公明の推薦を受け再選を目指す。しかし、自民・公明は前回、当時現職だった伊藤氏を推薦していたので、本来ならば、三反園氏にとっては“敵”のはずである。
今回の野党側である「5者会議」(連合鹿児島、立憲民主、社民、国民民主、県民連合)はずっと独自候補の擁立を模索していたが、結局間に合わず、一致して支援する候補は不在となった。そして、“三反園おろし”のために、伊藤氏と塩田氏に候補の一本化を要請したが、それも失敗に終わった。要するに、候補者と支援組織が前回とは入れ替わった“ねじれ”が生まれ、それが選挙戦の行方を不透明なものにしている。
なぜ、このような候補者と支援組織のねじれが起きたのかといえば、原因は4年前の三反園氏の振る舞いにある。元テレビ朝日コメンテーターの三反園氏は、民進(当時)・社民の県組織から支援を受けたほか、原発に反対する市民団体と「脱原発」の政策合意を結び立候補した。しかし、当選してしばらくすると、九州電力川内原発をめぐる脱原発の姿勢はトーンダウンし、政策合意を結んだ支持者らを遠ざけた。県政運営では、県議会最大会派の自民党と歩調を合わせてきた。
自民党県連会長の森山裕国対委員長は、三反園氏について「(原発や安全保障などで)相反する政策を進めていない」と評価するが、地元の自民県議や支援団体の中には冷めた目で見る人も少なくないという。なかには保守分裂を不安視する声もある。
「ウソつきをリーダーにしてはおけない」
今回の知事選もまた、川内原発をめぐる論戦が深まるかどうかが大きな焦点の1つだ。原発の運転期間は福島第一原発事故後、原則40年となった。ただ、原子力規制委員会が認可すれば20年を上限に延長できる。これまで延長が認められた原発は4基あるが、いずれも再稼働していない。川内原発は再稼働後、運転延長を求める初のケースとなる。
「運転延長反対」など脱原発を明確にする候補は、元民放アナウンサーの青木隆子氏と内科医の横山富美子氏だが、伊藤氏や塩田氏は明らかに原発容認派だ。例えば、伊藤氏は「2041年に稼働終了させる」としている。三反園氏は20年延長についての賛否を明らかにしていない。川内原発は1号機が1984年、2号機が85年に運転を開始した。いずれもあと4~5年で運転開始40年に達する。
原発容認派の伊藤氏と塩田氏に対して、5者会議が候補一本化を働きかけたのはなぜか。福島第一原発事故後、現地調査へいち早く動くなど、脱原発派として有名な立憲民主党の川内博史衆議院議員(鹿児島1区)に話を聞いた。
「三反園氏に勝てる可能性があるのはその2人だから。他の方は準備が遅れていた。2人ともラ・サール高から東大卒で官僚出身なのだから、2人が同時に出れば三反園氏が漁夫の利を得るくらいのことはわかるはずだ。政治は主張さえしていれば良いというものではない。ベストな選択ができなければ、次にベストな選択をするのが基本だ。新型コロナ後、日本社会は大きな変革を迫られる。そんな大変な時期に、政策合意を反故にするような、平気でウソをつく人をリーダーにしておくわけにはいかない。この4年間、情けない人が知事になってしまったなあという思いしかない」
言葉の端々から、三反園氏に裏切られたとの思いが滲み出る。川内議員は三反園県政の4年間をこう評価する。
「今回の国体への対応(年内実施を断念)を見てもそうだが、何もしてこなかったのではないか。川内原発に関していえば、九州電力の言いなりだ。もし私がマネジメントできる立場なら、大規模集中電源から小規模分散型に転換し、20世紀型の経済モデルから脱却することにより、経済合理性が高まることをていねいに協議する。今回の知事選は鹿児島のエネルギー政策を議論するよい機会になればいい」
選挙法違反? 三反園氏をめぐる疑惑の数々
自民党の鹿児島県連が5月、県知事選の対策会議に出席した地元県議37人に1人あたり30万円の現金を手渡していたと複数のメディアが報じている。公職選挙法は票のとりまとめを依頼して金銭を配ることを禁止しているが、県連は「調査活動費で、選挙がらみの支給ではない」と説明した。しかしながら、受け取った県議は果たしてどう感じたか。後日、その現金を返還した県議もいた。
いかがわしい話はほかにもある。地元紙の南日本新聞によれば、三反園氏から鹿児島県内の首長数人に、選挙協力依頼の電話があったという。問題は、三反園氏が電話の際に、地元から県に要望されていた公共事業を挙げながら話をしていたという点だ。本当だとすれば、脅しのようなものである。
公職選挙法は特別職を含む公務員が地位を利用して選挙運動することを禁じている。三反園氏は6月20日、「電話も依頼もしていない」と否定していたが、翌日になって一転、電話をかけたことを認めた。集票の意図はなかったと弁明し、「自分の思いを伝えるために」電話をかけたという。
これでは「ウソつき」との批判も免れないのではないか。テレビ局のコメンテーター出身でありながら、マスコミ対応は苦手らしい。
(文=横山渉/ジャーナリスト)