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綾野剛、舘ひろし出演の映画『ヤクザと家族』監修で見た壮絶な撮影現場【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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 一言でいえば、映画の撮影現場は、強烈な“オトナの文化祭”といったところだろうか。関わる人々からは、仕事という枠には収まりきれない、思い入れや情熱が溢れていたのだ。それだけに、1カ月を超えた撮影現場での日々の思い出は尽きない。

 筆者は、来年公開予定の映画『ヤクザと家族 The Family』で監修、所作指導を務めた。同作の主演は綾野剛。脇を支えるのが舘ひろし。現在発表されているキャスティングはその2名のみだが、そのほか日本を代表する俳優たちが顔を並べている。

 まさか、小さな頃からテレビで観ていた舘ひろしさんに、撮影中ずっと「先生」と呼ばれることになるなんて想像したことがなかった。舘さんは、一つひとつのお芝居の際に演技指導していた筆者に対して、終始「先生〜、今のどうだった〜?」となごかな笑顔で確認してくれるのである。

 舘さんから醸し出されるオーラは、周囲を圧倒するほどであった。そんな人が筆者のような人間に、敬意を示しながら、演技の是非を尋ねてくれるのだ。撮影現場は想像を絶するほど過酷だったのだが、いつもそうした一言に感動し、奮い立たされた。舘さんから「先生」と呼ばれる経験は、筆者の人生で間違いなく「宝物」と呼べるものだろう。

 そして、綾野剛さんである。いわずと知れた、芸能界の第一線で活躍しているスターだ。筆者は、撮影前に行われる衣装合わせから立ち会うことになったのだが、この時、初対面となった綾野さんと接し、なぜ彼が第一線で活躍し続けているのか、すぐに肌で感じさせられた。お芝居に対する情熱と、誰に対しても分け隔てなく行う気配りが素晴らしいのだ。今の自身のポジションにあぐらをかくことなく、おごりなど皆無なのである。

 それにしても映画の撮影は本当に大変で、拘束される時間が長く、素人には理解できないこだわりに付き合わされるため、何度もくじけそうになった。辛すぎて「もう辞めよう……」とばかり考え、途中降板するためのもっともらしい理由はないものかと、いつも考えていたように思う。だが、そんな時に綾野さんは決まって、「沖田さ〜ん!」と屈託ない表情で声をかけてくれた。今思えば、あの時、筆者は別の暗い世界にいたのだろう。

「沖田さん〜、映画の撮影は大変でしょう? でもね、これがやみつきになってくるんですよ〜」

 筆者がたたずむ暗い世界に、眩しいほどの笑みを浮かべて綾野さんが足を踏み入れ、そこに明るさを取り戻させてくれた。綾野さんのそんな言葉に、筆者はその時にブルンブルンと首を振っていたのだが、今なら意味がわかる気がする。現に『ヤクザと家族』の監修の仕事が終わってすぐにやってきた連続ドラマの監修の仕事も、大変だと知りつつも受けていたのだった。綾野さんが言うように、作品を作る人々の情熱に、筆者もいつしか魅力され、やみつきになっていたのかもしれない。

 辛いと思った仕事をやり遂げられた理由は、それだけじゃなかった。作品の舵を握る監督の存在。それが本当に大きかった。

『ヤクザと家族』のメガホンを握ったのは、映画『新聞記者』で今年の日本アカデミー賞を受賞した藤井道人監督。まだ33歳という藤井監督もまた天才と呼ばれる人種だろう。その上で、強烈なリーダーシップを発揮して、メガホンを握り続けるのだ。筆者よりもひと回りも下という若さなのに、その姿勢には勉強させられるところがたくさんあった。そして、人柄がすごく良いのだ。藤井監督には、「この人のために――」と周囲が一丸となって彼を支えようと思わせるような人間性が兼ね備えられていた。もしも藤井監督でなければ筆者は、一見冷たく過酷な映画独自の制作文化に飲み込まれてしまい、途中で限界を感じていたかもしれない。そうしたなかで、オールアップを迎えた際、筆者の性格をよく知る知人たちは、「最後までよくがんばった」と久しぶりに褒めてくれたのだった。

 そんな作品に筆者が携わることになったきっかけは、ある若手の助監督が筆者の著作を読んでくれたことだった。『ヤクザと家族』の監修には沖田臥竜が適任だと判断し、監督たちに猛烈にアピールしてくれ、「この人を口説いてよいですか!」と言ってくれたのだ。

 そんな助監督に対して、撮影中には厳しい意見を述べたり、叱責したりして、時に号泣されたこともあった。彼が筆者の担当ということもあり、まだ若い彼に作品に関すること以外にもいろいろな話をした。

 自分でも十分理解しているが、筆者は立派な人間では決してない。取り返しのつかない過ちだって数多く犯してきている。だからこそ、今後は同じ過ちは犯さないと決心し、新たな道でペンを握り続けた。その思いは今でもたいして変わってはいないが、寝る間を惜しんで働き続けたおかげで、普通に生活はできるようにはなっている。その挙げ句に来た今回の仕事。

「沖田を起用して、本当に大丈夫なのか?」という言葉も一部にはあったであろうなか、助監督の一言をきっかけに、監督をはじめ、この映画に携わったすべての人々が、監修および所作指導役として筆者を押し切ってくれたのだ。こちらとしても、その勇気ある決断を後悔させないために、期待に全力で応えようと思ってやってきた。その思いは、撮影が終了した今後も変わらない。

 平成、そして令和のヤクザの姿を描いた映画で、『ヤクザと家族』のリアリティに勝るものはないという自負がある。すごい作品である。少し気が早いが、来年、劇場で観ていただければ幸いだ。

(文=沖田臥竜/作家)

●2021年公開・映画『ヤクザと家族 The Family』公式サイト
https://yakuzatokazoku.com/

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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