さらば白川総裁! 祭り上げられた5年間の評価は「何もできなかった」!?
(「日銀HP」より)
昨日3月7日、日本銀行の白川方明総裁のもとで開かれる最後の金融政策決定会合が開かれた。これを受け、各メディアが“白川時代”の5年間を振り返っているが、退任する白川総裁に花を持たせつつ、批判的な世論に逆らわないかたちで、好意的な評価と残した課題や失策の両面から取り上げているものがほとんどだ。
8日付の日本経済新聞は、国債買い入れの逐次増額が「後手に回っている」という印象を深め、また戦後最高値を記録した円高にも「果断な対応が遅れた感は否めない」としながらも、リーマン・ショックや東日本大震災、欧州債務危機などに直面しながら、金融システムの安定を守り抜いたと評価。「日本の金融機関がいま、欧米勢が撤退したアジア市場に乗り込み、成長戦略の先陣を担う環境を維持したのは白川日銀の功績だろう」とまとめている。
より好意的な分析をしているのは、産経新聞だ。白川氏は金融政策の専門家が集まる国際舞台で、日本のバブル崩壊の経験や、デフレ克服に向けて社債などのリスク資産も買い入れるなど非伝統的な緩和策に先鞭を付けた知見を披露しており、その専門知識と分析力は「各国の中銀関係者が舌を巻くほど」(日銀幹部)だったという。
同紙は、リーマン・ショック後の金融危機を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)などが迅速な金融緩和に舵を切れた背景にも、白川氏の知見が生かされていると分析。結果が問われる最高責任者の顔と、金融・マクロ経済の専門家としての顔のどちらに目を向けるかで評価は変わり、市場からは「本来だったら、最高の副総裁になれたはず」との声が漏れていると締めくくっている。5年前、参院で多数の民主党が政府の日銀人事案に反対する混乱のなかで、副総裁候補から総裁に「祭り上げられた」(同紙)白川氏への同情も垣間見える内容だ。
他方で、専門家からは手厳しい意見も多数寄せられている。朝日新聞にコメントを寄せた中原伸之・元日銀審議委員は「『失われた20年』生んだ」と辛辣だ。「白川総裁はデフレに有効な政策を打てなかったにもかかわらず、海外では『(日銀は)孤独な先駆者』と自画自賛した」「自らの理論にこだわり、異なる意見に耳を傾ける謙虚さに欠けていた」「円高やデフレで人々の暮らしは苦しくなったのに、傍観者的立場に終始していた」など、強く批判する言葉が並んでいる。
また、「『脱デフレ』宿題残す」との見出しで5年間を振り返っているのは読売新聞。クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏が、「デフレ脱却に向けた取り組みは不十分で評価できない。円の価値の維持や日銀バランスシートを重視するあまり、残存期間が短い国債の購入に偏った。その結果、デフレが解消できなかった」とまとめた。
ブルームバーグは8日の記事で、株式など資産市場が白川総裁の退出を好感し、アベノミクスのもとで日銀に送り込まれているリフレ派の正副総裁を歓迎していることを伝えながら、「しかし、長く日銀を間近に見てきたエコノミストの間からは、その評価を断じるのは時期尚早で、歴史に委ねるべきだという声も上がっている」としている。
各メディアがどっちつかずの評価を下しているのも、比較的容易に日本経済の風向きが変わり得る現在の状況を見てのことだろう。アベノミクスの成否が、白川総裁の評価を分けることになりそうだ。
(文=blueprint)