8月28日に安倍晋三首相が辞任の意向を表明したことで、自民党の次期総裁をめぐる動きが本格化している。
自民党は9月1日に開かれる総務会で総裁選挙の方法を決定する見通しだが、二階俊博幹事長は、国会議員に加えて党員・党友も参加する通常の方式ではなく、国会議員と都道府県連の代表による両院議員総会での実施を示唆している。そして、9月14日にも総裁選を実施、17日に臨時国会を召集し、首相指名選挙を行うという日程が濃厚だ。
ポスト安倍候補として名前が取り沙汰されているのは、菅義偉官房長官、岸田文雄政務調査会長、石破茂元幹事長の3人だ。当初は出馬の意向がないと伝えられていた菅官房長官が8月30日に立候補の意思を示したことが報じられ、二階派は菅官房長官を支持する方針で固まったという。
また、麻生太郎財務大臣兼副総理が率いる党内第2派閥の麻生派も、菅官房長官を支持する方針のようだ。それに伴い、麻生派に所属する河野太郎防衛大臣は出馬を見送ったと伝えられている。かねてから首相の座への意欲を隠さず、ポスト安倍の有力候補と言われていた河野防衛相だが、今回は自重したようだ。
「あとは安倍首相の出身で最大派閥である細田派の動き次第ですが、これで現時点では“菅総裁”が最有力候補と言えそうです。新総裁の任期は安倍首相から引き継ぐため2021年9月までなので、1年後にまた総裁選がある。麻生派は河野氏に出馬を断念させるにあたって、『次の次を狙え』と説得した可能性もあります」(政治記者)
一時は安倍首相からの“禅譲説”も流れた岸田政調会長は出馬を明言しており、8月31日には首相官邸を訪問し、安倍首相に直接「お力添えをお願いした」という。かねてから発信力の弱さが指摘されている岸田政調会長は初の著書『岸田ビジョン』(講談社)の発売時を9月11日に前倒しするなど態勢を整えるが、菅総裁の誕生が現実味を増す中、旗色が悪くなりつつある。
小泉進次郎が前回の“石破支持”から一転
過去にも総裁選を経験している石破元幹事長は、出馬を表明する見通しだと伝えられている。8月31日に公開されたロイターのインタビューでは、選挙の簡素化とも言える両院議員総会は「党員に対する侮辱」と痛烈に批判している。地方人気が高いとされる石破元幹事長は、かねてから党員投票を省く両院議員総会には猛反対の立場だ。
また、石破元幹事長には、もうひとつの逆風も吹いているという。8月30日、小泉進次郎環境大臣が「河野さんが出れば、河野さんを応援します」と語ったことだ。
さらに、小泉環境相は党員投票も含めた総裁選の実施を求めているが、「石破さんに有利だから、私が全党員投票を求めているというのはまったくの誤解です」とも語っている。
「結果的に河野氏の出馬はなさそうなので、現実に小泉氏が誰を支持するのかが注目されます。小泉氏といえば、前回2018年の総裁選では石破氏を支持したものの、その意向を表明したのは投票10分前でした。しかし、今回はいち早く河野氏の支持を打ち出したことになり、意地悪な見方をすれば、石破茂は影響力の強い小泉氏に“見放された”とも言えそうです」(同)
共同通信社が8月29、30日に実施した世論調査では、次期首相に「誰がふさわしいか」という質問に対して、石破元幹事長が34.3%でトップとなり、菅官房長官の14.3%、岸田政調会長の7.5%に大きな差をつけている。
「自民党は両院議員総会を強行するようなので、石破氏には最悪“出ない”という選択肢もありましたが、出馬に向けて動いていると伝えられています。自民党総裁選は国会議員の推薦人20人を集めないと出馬することができず、いわば出ることに意味がある場とも言えます。たとえ“負け戦”でも出馬するケースがあるのは、そのためです。そうした意味では、石破氏が出馬を選ぶとすれば、今後に向けて求心力と存在感を保つための選択なのではないでしょうか。
いずれにしろ、今回の総裁選は“中継ぎ”の意味合いが強く、その次の総裁選では権力の座をめぐる争いがさらに激化しそうです。各派閥で河野氏や岸田氏を担ぐ動きがあったり、小泉氏のような若手が本格的なリーダー候補に育ってきたりすれば、石破氏は“次の次の首相”の目もなくなる可能性があります」(同)
石破元幹事長の出馬は、吉と出るか凶と出るか。神のみぞ知るというところだろう。
(文=編集部)