東京・兜町界隈は混乱の極みにあった。
東京証券取引所は1日、株価など相場情報の配信に障害が発生していると発表。午前9時の取引開始から終日、すべての銘柄で売買が停止され、国内外の機関投資家や多くの個人投資家に大ダメージを与えた。同日午後2時現在、明確な原因は明らかにされていないが、日本経済新聞などによると、「ハード(設備)の故障」であるという。
東証は日本国内のみならず、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界金融のハブであり、重要な経済インフラの一つだ。戦争や巨大災害にも耐えうるシステムが求められていたこともあり、政府関係者の動揺は激しく、システムエンジニア(SE)からは冗長性に関する多くの疑問の声が上がっている。
富士通製基幹システム「アローヘッド」に問題があったのか?
東証のシステム障害による全面停止は2005年11月ぶり。システム以外の要因では、06年のライブドアショックに伴い、売買単位で東証全体の45%を占めるまでになったライブドア株に大量の売り注文が殺到したため、株式の全銘柄の取引を停止した事例がある。ちなみに東証の株式売買の基幹システム「アローヘッド」は富士通が設計・開発。10年に稼働を開始し、19年11月に新システムに刷新していた。
金融機関の基幹システムの保守に携わる大手メーカーのSEは今回の事態に関して次のように指摘する。
「基幹システムダウンの要因が設備の故障というのは、ちょっと信じられない話です。パッと思いつく設備上の不具合は電力供給絡みですが、東証クラスの事業体であれば自家発電装置や複数の予備電源などハード面も含めた冗長性を確保してあると思っていました。それがすべてダウンしたというのであれば、脆弱すぎだと思います」
同SEによると、「冗長性」とは「冗長化」が適切に行われている状況を指すという。「冗長化」とはコンピューターやシステムに障害が発生した場合に備えて、予備装置を普段から配置、運用することで、冗長性とよく混同される「バックアップ」との違いは、データの保管方法にあるという。
IT関連業界でいうところの「バックアップ」は、専用の媒体(クラウドなどを含む)に継続的にデータが保管される仕組みなどを指し、「二重化」は全く同じ設備を2つ用意することをいう。冗長化はそれらをすべて包含したもので、バックアップ、設備双方を3~4重にしたうえで、稼働させるシステムを複数用意しておき、予備も含めて情報の並列化と更新がなされ、常に同一の状態に保たれるシステムを構成することを指すという。
「富士通さんが基幹システムにどんな冗長化を図っていたのか、非常に気になるところです。8月末にニュージーランド証券取引所がサイバー攻撃を受けて4日連続で取引を一時中断する事例がありました。いずれにせよ、どこの金融機関も東証と無縁ではないので、どこもパニック状態です。一刻も早い原因究明と復旧を望みます」(前出のSE)
経済産業省関係者は次のように話す。
「正直、困惑しています。ニューヨーク、ロンドンと違い大規模テロの危険性のない東京は世界中の投資家から最も安全な市場だと目されています。財務省や金融庁をはじめ、何とか影響を小さくしようと努力していますが、この状態が長引けば失われた信用を取り戻すのは困難になるでしょう。投資家や国内の上場企業ともに大きなダメージが出ています。原因究明と再発防止のため今後、政府も動くと思います」
仮に復旧したとしても、今回の問題は後を引きそうだ。
(文=編集部)