上昇し続ける空き家率
日本の空き家率は戦後一貫して上昇を続け、2013年時点で13.5%に達した。空き家率の国際比較は、統計上の空き家の定義の違いにより厳密には難しい。ここでは住宅数と世帯数のギャップから算出した広義の空き家率をみると、日本の13.5%に対し、イギリスやドイツでは数%、アメリカは10%程度となっている(不動産流通近代化センター調べ)。日本の空き家率は上昇し続けてきたのに対し、欧米先進国の空き家率は、景気の良し悪しなどによって循環的に上下に変動しているにすぎない。もちろん、どの国でも衰退地域で空き家率が上昇する例はあるが、日本のように全国的に空き家が増えている例はない。
日本の空き家率は、先行きも上昇を続けていく可能性が高い。筆者の試算では、新築を今のペースで造り続け、取り壊しも今のペースのままだとすると、33年の空き家率は13年の13.5%から28.5%に上昇する。新築を段階的に減らして半減させ、取り壊しのペースも段階的に引き上げて倍にしたとしても、33年の空き家率は22.8%に達する。このような厳しい条件でも空き家率が2割を超えてしまうのは、世帯数が19年をピークに減少し、住宅需要が減少していくことによる。
東京都の空き家率も同様に試算すると、現状のままでは13年の11.1%から33年には28.4%に、新築を半減させ取り壊しペースを倍にするケースでは22.1%に達する。東京都の空き家率は、今は全国よりは低いが、東京都は25年をピークに世帯数が減少に向かい、空き家率が次第に全国の水準に近づいていく。
特異な日本の住宅市場
こうした日本と欧米の違いには次のような点がある。まず、欧米のまちづくりでは総じて、市街地とそれ以外の線引きが明確で、どこでも住宅を建てられるというわけではない。そして、建てられる区域のなかで、長持ちする住宅を建てて長く使い継いでおり、購入するのは普通、中古住宅である。欧米の住宅市場では、全住宅取引のうち中古の割合が70~90%程度を占めるのに対し、日本ではその比率は14.7%(13年)にすぎない。
また、日本の住宅寿命は短く、取り壊された住宅が取り壊された時点で何年経過していたか(滅失住宅の平均築後経過年数)を見ると、日本の32.1年に対し、アメリカ66.6年、イギリス80.6年となっている(国土交通省調べ)。
日本では戦後、高度成長期の住宅不足に対応するため街を広げ、新築を大量に造ってきたが、一転して人口、世帯が減少に向かうようになると、条件の悪い地域から引き継ぎ手がなく、空き家が増えるようになっている。短期間で建て替えることが前提で住宅寿命が長くなく、使うに使えないという事情もある。
このような日本と欧米の住宅市場の違いはあるが、欧米各国でも空き家対策は講じられている。イギリスでは空き家が増えた場合の問題として、近隣への悪影響のほか、市場に空き家が放出されず住宅供給が不足するという点が認識されている。改修の補助金、長期間空き家になった場合の付加税などの施策がある。フランスでも空き家増加が住宅供給を阻害するとの考えから空き家への課税がなされている。空き家増加が住宅供給不足の原因になる状況は、日本で空き家の市場供給がなくても住宅供給がだぶついている状況とはまったく異なる。
ドイツ、アメリカの強制手段
ドイツにおいては、古く小規模な住宅が多く、人口が減少傾向にある旧東ドイツ地域を中心に空き家率が高くなっている。ドイツでは、建物が不良な状態になった場合に修繕命令や解体命令を出すことができる。改修費用は改修で建物の価値が上がる範囲で負担しなければならないが、補助の仕組みもある。解体費用は、解体で土地の価値が上がるなど利益が得られる範囲で負担を求められるが、逆に不利益を受ける場合は、行政が補償や買い取りを求められる場合もある。このほか、行政が一定条件の下で認められる先買権を行使して解体や再利用を行ったり、あるいは代執行したりする場合もある。
アメリカにおいては、かつて鉄鋼業で栄えた五大湖南部のラストベルト(錆びついた工業地帯)と呼ばれる地域の衰退が著しい。これら地域では空き家率が高く、空き家対策が積極的に行われている。
オハイオ州ヤングスタウンの例をとると、対象となる物件があると、所有者に修理ないし解体する必要がある旨通知をし、30日間の猶予を置いても返答がないか修理されなかった場合には市が解体する。解体費用は所有者に請求され、支払いがない場合は、土地は市の所有となる。ただ、支払わず市の所有になるケースでは、所有者の今後の信用にもかかわるため、所有者が市に譲渡する道もある。市の所有となった土地の利用方法については市のランドバンクが判断する。なお、固定資産税の支払いを2年間滞納したケースでは、取り壊さなくてもランドバンクの所有になる。
ランドバンクとは、アメリカにおいて州や郡、市などの単位で設けられている組織で、固定資産税を支払えなくなった人の物件を優先的に取得する権利を持ち、行政が所有することで土地利用をコントロールする役割を果たしている。このようにドイツ、アメリカでは強制力を持った手段も使いながら、空き家対策が進められている。
翻って日本では、空家対策特措法の施行に伴い、代執行など特定空家への強制手段は従来より取りやすくなった。しかし、欧米に比べて日本では所有権が強いことから、強制手段のハードルは高い。
空き家を増やさない根本策としては、広がりすぎた市街地を縮減するとともに、新築を減らし中古市場を拡充していくことが必須である。しかし一方では、一定の条件の下で自治体に利用権を付与したり、所有権が移るようにするなど、強制力をもう一段強化する必要があると考えられる。
これに関連した施策のひとつには、自民党の所有者不明土地問題に関する議員懇談会が、所有者がわからなくなった空き家や空き地を有効活用するため、自治体の利用権限を強化する新法の必要性を提言しており、早ければ秋の臨時国会に提出される可能性がある。
(文=米山秀隆/富士通総研主席研究員)
【参考文献】
倉橋透(2013)「イギリスにおける空き家対策」(都市住宅学80号)
小柳春一郎(2014)「欧米の空家対策:フランスの場合」(日本不動産学会誌110号)
前根美穂・中山徹・清水陽子(2010)「アメリカにおける空き家対策事業に関する研究」(日本都市計画学会都市計画報告集No.9)
室田昌子(2015)「ドイツの空き家実態と空き家対策」(都市とガバナンスVol24)