4月25日、JR埼京線内で女性の体を触ったとして41歳の男が警視庁に逮捕された。男は、JR板橋駅で女性に電車から降ろされたが、その後、線路に飛び降りて走って逃げた。だが、脱ぎ捨てたコートなどから身元が特定され、逮捕に至った。
首都圏では最近、痴漢を疑われた男が線路上を走って逃げるケースが相次ぎ、そのほとんどは捕まっていない。そのため、インターネット上では、「痴漢を疑われたら線路を走って逃げるのが一番の得策」といった声があふれているほどだ。
だが、線路を走って逃げる行為は、電車と接触する危険が伴い、命も落としかねない。そればかりか、電車を遅延させて何万人という鉄道利用者に迷惑をかける。
だが、痴漢を疑われた場合、無実の場合でもそれを証明することは簡単ではなく、冤罪となる可能性もある。痴漢は犯罪行為なので犯人は捕まってしかるべきだが、無実なのに疑われた場合はどうするべきなのか。
『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)では、痴漢を疑われた場合の対応として、「立ち去るべき」と答えた弁護士が4人中3人に上った。
だが、弁護士法人ALG&Associates執行役員の山岸純弁護士は異を唱える。山岸氏に、痴漢を疑われた場合の対処法について解説してもらった。
痴漢を疑われたら「現行犯逮捕」を避ける
『行列のできる法律相談所』で弁護士たちが「立ち去れ」と述べたのは、刑事訴訟法214条が、「(警察官以外の人が)現行犯人を逮捕したときは、直ちにプロの警察官などに引き渡さなければならない」と規定しているので、痴漢を疑われた人が被害者(と称する人)と一緒に交番に行ってしまうと、そのまま警察署に連れていかれて逮捕・送検(合計72時間)、勾留(最大20日間)という流れになってしまうため、それならばとりあえず「立ち去れ」という考えが生まれたからでしょう。
しかし、これは大きな間違いです。はっきり言って、番組で得意げに話をされた弁護士の見識を疑います。
正しくは、「被害者(と称する人)」に「現行犯人として逮捕させない」ことです。すなわち、現行犯人は警察官ではなくても逮捕できる(刑事訴訟法213条)のですが、「被害者(と称する人)」が「痴漢を疑われた人」の腕などをつかんで駅員室や鉄道警察官のもとに連れていくという行動が「現行犯逮捕」と評価されてしまうため、その後は上記のとおりの流れになってしまいます。
そこで、「現行犯人として逮捕させない」、例えば、堂々と名刺を差し出して身分や素性を説明し、物理的に拘束されないような状況をつくることが大切というわけです。
なお、線路に降りるなどして電車の進行を妨害する危険が発生した場合、刑法124~129条の「往来妨害罪」に該当します。その場合、鉄道会社から巨額の損害賠償を請求される可能性もあります。また、電車を妨害しなくても、鉄道営業法37条で1000円以上1万円未満の科料が科されます。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)