韓国大統領選に勝利した文在寅(ムン・ジェイン)が10日、大統領に就任した。反日強硬派で親北朝鮮とも伝えられてきた文氏だが、韓国を取り巻く状況にはどのような変化が生まれるのだろうか。ジャーナリストで拓殖大学教授の富坂總氏に話を聞いた。
「文大統領になって、日本との関係が悪くなるという意見が数多く出ていますが、当面はあまり外交にエネルギーを使わず、内政に力を注いでいくと思います。『前大統領の朴槿恵ではなくてよかった』ということを証明しなくてはいけない。朴氏で足りなかった部分を強化してくると思いますね。若者をどういうかたちで納得させるか。雇用をつくり出しながら、一部の人間に偏っていた富をどのように分配するかということが、課題になってくるでしょう。財閥など、若者が怒りを向けているターゲットに対して、厳しい舵取りをするのではないでしょうか」
日韓関係には変化は起こらないのだろうか。
「日韓合意については、見直しを求めてくると思いますが、対立的な見直しにはならないでしょう。今の日韓合意をベースにして、プラスアルファするというような感じで収めたいのではないかと思います。それを韓国国内では、大々的に『勝った勝った』と宣伝して、実質的にはそんなに変わっていない合意を目指してくるのではないかと思います。内政が第一なので、それも先々のことでしょう。文氏が、日韓合意、従軍慰安婦問題について言っているのは、国民の声が強いからだと思います。国民の声がなければ、日本の問題よりも北朝鮮との関係に注力したいはずですから、優先順位は低くなるはずです」
では、日韓関係については安心していいということだろうか。
「若者に対するアピールがうまくいかなかったときに、韓国の政権というのは“反日”というカードを支持率向上に利用しますから、そういう方向に進みかねない懸念はあります」
北朝鮮問題の当事者ではない
一方、韓国と北朝鮮の関係はどうなるのか。
「前政権よりは柔軟になるとみています。ただ、対話を進めたとしても、文大統領のスタンドプレーのようには映らないでしょう。アメリカも対話の方向に進んでいますから」
先週、トランプ米大統領は「状況が適切なら金正恩委員長に会う」と発言。8日からノルウェーのオスロで、米朝の非公式の協議が行われたことも伝えられている。
「文氏が南北での話し合いを行うとしたら、ひとつの空気を変える意味はあると思います。ですが北朝鮮問題で韓国は当事者ではありません。朝鮮戦争の休戦協定というのは、国連軍と北朝鮮の間で交わされたものです。国連軍というのは、実質的には米軍。北朝鮮としては、アメリカと話をしなければどうしようもないという考え方。韓国はキープレイヤーではないわけです。朝鮮半島情勢について第1のキープレイヤーは北朝鮮とアメリカ、第2のキープレイヤーは中国、以上ですから。もちろん文氏がTHAAD(戦域高高度防衛ミサイル)を取り払うなんてことを言い出したら、アメリカは必死に防戦するでしょう。ですが北朝鮮との対話を進めるということ自体は、国際社会の流れに棹差すものではありません。ただし、北朝鮮から見たら、韓国というのはアメリカの手先。アメリカから見ても韓国は自分の手先なのです。アメリカの承認なしに、韓国軍は照明弾のひとつも撃てないですから。北朝鮮としても、韓国よりもアメリカと話したいと考えているでしょう」
文大統領が内政で成果を上げることを、願うばかりだ。
(文=深笛義也/ライター)