今年2020年ほど、テレワークが注目された年はない。
いうまでもなく、新型コロナウイルスの影響である。この感染拡大によって、テレワークの導入が一気に進んだ感があるが、それまでに試験的に導入していたなどの「下地」がなかった企業の場合、テレワークによってこれまでになかった新たな問題が生じ、結局「出社」に戻ってしまうケースもある。
ただ、個々人に合わせた柔軟な働き方ができるテレワークは、基本的にはコロナウイルスの流行が収束した後も制度として残し、活用すべきものだろう。『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』(池田朋弘著、マイナビ出版刊)は組織や従業員にとって、メリットが最大化するテレワークの取り入れ方を解説していく。
「テレワークで会社の一体感が失われる」は本当か?
では、テレワークで生じうる問題とはどのようなものがあるのだろうか。
経営者が懸念することの一つは、テレワークによって従業員が離れ離れになり、会社や社内のチームで一体感が失われることだ。たとえば、テレワークでは、これまでのように気軽に雑談をすることができない。雑談からは、様々なビジネスのアイデアが生まれることが多々ある。また、話しているうちに今手がけているプロジェクトのことで盛り上がって士気が上がることもあっただろう。テレワークでこれらがなくなるとすると、「一体感がなくなる」という懸念もわからなくはない。
ただ、本書ではこれは解決可能な問題だとしている。雑談の場や時間がなかったり、あるいは一カ所に集まらなくなったことでチームのメンバーの人となりを知る機会が減ったり、といった「雑談ができなくなる要因」は、意図的にそのための場を作ったり、会議の時間を圧縮・削減することで解消できる。
メンバー同士が顔を合わせなくなると、雑談をしようにもネタがなくなってしまいやすいため「自己トリセツ(取扱説明書)」をつくり、互いの共通点や関心事を見える化しておくと、場を設けることさえできれば雑談は生まれていく。
また、自社のミッションやビジョンなど「未来」を語る時間(これまでは雑談や仕事後の「飲み会」がそこに充てられていた)は、テレワークではとりにくいし、米ヤフーや米IBMがテレワークを禁止した理由として挙げたように、アイデアを共有・発展させにくいという意見もある。これらについては「オンライン合宿」など非日常の場を設け、自分や会社の未来を熱く語る時間をつくることや、社内で使うチャットツール(SlackやChatwork)に自分のアイデアを好きな時につぶやけるチャンネルを作ることで、メンバーとそのアイデアを深める議論をできるようにすることで解決可能だ。
オンライン会議は本当に「難しい」?
またリモートワークのマイナスポイントとしてしばしばあげられるのが「会議」である。
オンライン会議に参加すると、ある種の不便さを感じることは多い。同時に一人しか話せないため、どうしても会話が一方面的になりがちだ。対面での会議のように、相手の発言中にちょっと割って入ったり、数人で声を揃えたりといったこともしにくい。その意味で、オンライン会議は「議論」が難しい。
本書では、こうしたコミュニケーション上の制約があるオンライン会議での議論は、人数を絞って行うことをすすめている。議論ではなく業務説明を聞く「情報共有」だけが必要な人もいるのであれば、かならずしもリアルタイムで会議に参加する必要はなく「スクリーン録画」機能を使って後から会議の内容を追えば、会議や会議人数の削減になる。
どうしても大人数になってしまう場合は、少人数に分けて議論を行ったり、チャットや共同作業ツールを活用することで、オンライン会議でも効果的な議論ができるようになるという。
また、オンライン会議では、事前の準備が成否を分ける。事前に会議の目的と論点を明確にして、知っておくべき情報を頭に入れておいてもらうことで、進行は格段にスムーズになる。
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本書では、このほかにもテレワークで起こりがちな問題として、「連絡・相談がしにくい」「メンバーの管理・サポートがしづらい」を挙げているが、ここで紹介した問題も含めて、テレワークで想定される問題はすべて「コミュニケーション」に帰結する。
これらはすべて解決可能な問題であり、解決法を知ることで、テレワークは単純な「出社の代替手段」ではなく、組織の生産性を高め、業績を上げる最適解となる。
テレワークには「向いている会社」「不向きな会社」はない。すべては取り入れ方とカスタマイズの問題である。本書を読めばテレワークをどのように取り入れて、どう運用していくべきかがわかるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。