自民党と公明党による衆院広島3区の候補者争いが激化している。
広島3区は自民党を離党し、公職選挙法違反の罪で公判中の河井克行元法相の地元。すでに公明党が、比例中国ブロック選出の現職、斉藤鉄夫副代表(68)の擁立を決定済み。11月19日に、広島市内で記者会見も開いた。電光石火の素早さで、自民党の小選挙区を奪いにいっている。
公明党は現在、衆議院の9つの小選挙区に候補者がいるものの、関西以西には選挙区がない。中国や九州地方で小選挙区候補を出すことは、長年の悲願だった。全国の小選挙区で、連立を組む自民党候補に2万票前後を協力していることもあり、山口那津男代表は、「自民党は大局的に判断してほしい」と広島3区の明け渡しを迫っている。
ところが、地元の自民党広島県連は簡単には納得しない。売られた喧嘩は受けて立つとばかりに候補者選考の公募を行い、広島県議の石橋林太郎氏(42)の擁立を決定。12月9日、党本部に次期衆院選候補者の前提である党支部長に選任するよう要請した。
県連会長の宮沢洋一参院議員は「公明と一緒に自民候補を応援できる態勢を党本部がつくってほしい」と、県連が決めた石橋氏への与党候補の一本化を求めたのだった。県連が強気になれるのには理由がある。公明党が候補者擁立に固執しても、自民党の支援がなければ広島3区での当選は覚束ないという確信があるからだ。
「2017年衆院選の広島3区の比例票は、自民6万3000票に対し、公明は2万6000票。公明票だけではとても勝負になりません。戦いの末に公明候補に決まったら、3区の自民は動かない。結果、野党を利することになる」(自民党関係者)
公明と創価学会の権力闘争
加えて、公明が広島3区に殴り込みをかけた背景に党利党略を見た県連が怒っているとも。
「党勢退潮への危機感から、関西以西の小選挙区で強気の戦略を仕掛けると公明は説明しているようですが、本当の危機は、公明が現状で2議席を確保している比例中国ブロックで、2議席目を取れない可能性が高まっていることにある。つまり、ドント方式で当選者が決まる比例では落選しかねない斉藤さんを、小選挙区の自民党票で救ってもらおうということ。ご都合主義じゃないですか」(自民党関係者)
さらには公明と支持母体・創価学会の権力闘争も絡む。広島への殴り込みは、菅義偉首相と昵懇の学会幹部・佐藤浩副会長が絵を描いたとみられている。
「広島の学会責任者は佐藤副会長の直系とされます。それもあって、中国ブロックでの全体の当選者数を絶対に減らすわけにいかない」(自民党関係者)
そのため、内部からも「自民と喧嘩なんかして。自民に動いてもらえなければ小選挙区では勝てないのに、何をやっているのか」といった批判的な声も出ているという。
公明党・創価学会も決して一枚岩ではないのだ。75歳以上の高齢者の医療費負担を現在の1割から2割にアップさせる一件では、年収制限のラインをめぐって、公明党が240万円以上を主張、自民党が170万円以上にこだわり調整が難航した。結局、菅首相と山口代表のトップ会談で、足して2で割って200万円以上で決着した。だが、選挙の候補者は足して2で割れない。どうやって落とし所を見つけるのか。
(文=編集部)
【続報】
次期衆院選の候補者争いで“仁義なき戦い”となっている広島3区。同区は、自民党を離党し、公職選挙法違反の罪で公判中の河井克行元法相の選挙区だ。ここに公明党が、比例中国ブロック選出の現職、斉藤哲夫副代表(68)の擁立を電光石火で決定し、自民党に支援を求めた。
これに地元の自民党広島県連は猛反発。公募を行って広島県議の石橋林太郎氏(42)を選び、12月9日、党本部に次期衆院選候補者の前提である党支部長に選任するよう要請した。
そんな中、12月16日~17日にかけて、「自民党が広島3区の与党の候補者として公明の斉藤氏を支援する方向」との報道が一斉に流れた。16日に自民党の山口泰明選対委員長が広島県連常任顧問の岸田文雄前政調会長と党本部で会談したことが背景にある。これを機に、自民党本部は一気に「公明候補支援で決まり。自民は公認見送り」で外堀を埋めにかかったようだ。広島県連が擁立を求めた石橋氏については比例中国ブロックで処遇するという。
「全国の自公の選挙協力を考えれば、公明党の要望を拒否することは難しい。今回、公明党はかなり強硬に出てきた。菅首相が創価学会幹部と懇意なことも公明が強気に出られた理由だろう。このタイミングなのは、公明サイドから『年内に決着させて欲しい』と言われているからではないか。広島県連が求めた候補者は、比例1位などで優遇する形になるのだろうが、これは典型的な妥協パターンです」(自民党関係者)
「公明で決まり」の報道に岸田氏は、すぐさま反発。17日、「私にはまったく理解できない。山口選対委員長も大変憤慨している」と不快感を示した。
本気の反発なのか。それとも広島県連向けに易々と引き下がったと思われないようにするためなのか。いずれにしても、今後、広島3区には自民は候補者を擁立せず、ということで調整が進むとみられる。
だが、これで一件落着か、といえば、そう簡単ではない。
「既に公明に選挙区を明け渡している東京や北海道とは事情が違う」と言うのは自民党ベテラン議員だ。次のように解説する。
「東京や北海道は、自民党候補の公明票依存度が高いが、中国ブロックにはたいして公明票はなく、依存度が低いのです。党本部が公明候補支援を決めれば、県連は渋々でも従わなければならなくなるでしょうが、選挙の協力はしない。自民党の票というのは各種団体などの組織を回って積み上げて行くものですが、そうした活動にも協力しない。ここまでバトルが過熱化したら、公明候補の選挙なんてやれませんよ」
2017年衆院選の広島3区の比例票は自民6万3000票に対し、公明は2万6000票。自民票の多くが寝てしまったら公明候補は落選必至だ。