「週刊女性PRIME」の記事(2月1日配信)で、長男の花田優一氏に「モラハラ」や「暴力」などを告発された元横綱の貴乃花光司氏が、「週刊文春」(2月18日号/文藝春秋)の取材に応じ、「それらの内容は、自分に都合の悪い事実が伏せられて、巧妙な嘘で塗り固められています」と話している。
たとえば、優一氏は「外へ出て行くと、父が見たこともない形相で突然つかみかかってきました。そのまま道端で1時間半くらいつかみ合って……殴られて……」と告発していた(「週刊女性」)。だが、貴乃花氏によれば、優一氏と電話で口論になり、自宅から目と鼻の先にあった息子のマンションに向かったところ、「下で待ち受けていた息子が取り乱しながら、私に蹴りかかってきた」という。その後、貴乃花氏は力ずくで優一氏を自宅に連れ入れて、説教したらしい(「文春」)。
自分に都合のいいように話すことは誰にでもあり、そういうことを双方がやっている可能性は否定できない。だが、元横綱の父に1時間半くらい殴られたら、無傷ですむとは思えない。だから、少なくとも、優一氏の話には誇張があるのではないか。
また、貴乃花氏が大切にしていた大型バイクのハーレーダビッドソンを売却した件についても、両者の言い分は食い違っている。優一氏は、次のように証言していた。
「“査定してもらって売れるなら、その代金を引っ越し費用に充てさせてもらいたいんですが、いいですか?”と関係者の方々にお話ししました。すると“それでいいと思いますよ”と」(「週刊女性」)
この「関係者の方々」とは、貴乃花氏の友人2人のようだが、貴乃花氏によれば、「本人(貴乃花)に相談もせず、自分たちが勝手に『売ってもいい』なんて言うわけがない」と憤慨しているらしい。貴乃花氏自身も、「家族とはいえ、人の所有物を本人の許可なく売るなんて、考えられません」と「文春」で話しており、やはり優一氏が無断売却したのではないかと疑わずにはいられない。
優一氏の「姑息な嘘をつく癖」を貴乃花氏は「文春」で嘆いているが、たしかに、そういう傾向が以前からあるようだ。たとえば、優一氏は靴職人になるためにイタリアの工房で修業したと主張しているが、実際に通っていたのはアートデザインの専門学校だし、『アナザースカイ』(日本テレビ系)で優一氏が師匠として紹介した男性は、その後「弟子ではなく、教師と生徒の関係だ」と話している。
また、2017年6月に陣幕親方の長女と結婚したが、同年10月に出演した『徹子の部屋』(テレビ朝日系)では、独身を装っていた。さらに、2018年8月、貴乃花氏が夏巡業先の秋田市内で倒れて救急搬送された際も、優一氏は靴の納品が遅れていた理由の釈明のために父の看病を引き合いに出したようだが、貴乃花氏は入院もしていないし、看病もされていないという(「文春」)。
優一氏は「平気で嘘をつく人」?
これだけ嘘が多いと、優一氏は「平気で嘘をつく人」なのではないかと疑いたくなる。こういう人の特徴として、アメリカの精神科医、M・スコット・ペックは次の点を挙げている。
・罪悪感や自責の念に耐えることを絶対的に拒否する
・他者をスケープゴートにして、責任を転嫁する
・他人に善人だと思われることを強く望む
・体面や世間体のためには人並み以上に努力する
これらの特徴はすべて優一氏に認められる。父のバイクを勝手に売ったことに罪悪感や自責の念を覚えたくないから、あたかも許可を得ていたかのように話したのだろう。また、巧妙な責任転嫁もお得意のようだ。
さらに、他人に善人だと思われることを強く望むのは、優一氏がメディアに出続けたいと願っており、そのためには“いい人”と思われなければならないことを自覚しているからだろう。
おまけに、体面や世間体のためには人並み以上に努力するところもあるようだが、問題は、その努力が本業のはずの靴作りではなく、メディアでの自己正当化に注がれているように見えることである。
このように自己正当化するのは、自己愛が強いからだろう。ペックも、「平気で嘘をつく人」にしばしば認められる「悪性の自己愛」を指摘している。この「悪性の自己愛」の持ち主は、「自分の罪悪感と自分の意志とが衝突したときには、敗退するのは罪悪感であり、勝ちを占めるのが自分の意志である」。
優一氏も、父のバイクを売却して、お金を得たいという意志が強かったからこそ、それに罪悪感を覚えることもなく、その後も自己正当化に終始したのだろう。
これほど自己愛が強いのは、貴乃花氏の元妻で優一氏の母である河野景子さんの溺愛によるところが大きいように見える。貴乃花氏によれば、景子さんは息子をテレビ局などに積極的に売り込んでいたようだが(「文春」)、こうした姿勢も優一氏の自己愛をさらに強めたのではないだろうか。
優一氏を見ていると、芥川龍之介の次の言葉を思い出さずにはいられない。
「子供に対する母親の愛は最も利己心のない愛である。が、利己心のない愛は必ずしも子供の養育に最も適したものではない。この愛の子供に与える影響は―少くとも影響の大半は暴君にするか、弱者にするかである」
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
芥川龍之介『侏儒の言葉・西方の人』新潮文庫、1968年
M・スコット・ペック『平気でうそをつく人たち』森英明訳、草思社、1996年