ヒラリー・クリントン元米上院議員が『What Happened』という本を9月12日に上梓し、政界のみならず全米で話題になっている。同書は、昨年の大統領選で敗北した理由を自分の観点から“分析”したものだが、同日のニューヨーク・タイムズの書評記者でジャーナリストのジェニファー・シニア氏に、こう酷評されている。
「これは“検視解剖”で、彼女(ヒラリー・クリントン)が検視官でもあり、同時に死体でもある。これはフェミニスト宣言である。恨みを晴らす祝宴である。これはクリントン氏の選挙運動を運命づけた新しい仮説を提供しているか? 答えはノーだ。これは単に古い仮説を合成するだけもので、クリントン氏の分析の部分が本の中でもっとも興味をそそらない部分である」
ヒラリー氏自身の分析によると、敗北の最大の原因は“コミー・レター”だという。これは昨年10月28日、ジェームズ・コミーFBI長官(当時)が議会にヒラリー氏の私用メールの再捜査をする旨の通知をした書簡のことを指している。これが効果的に彼女の選挙戦を終わらせたというのだ。
これには私も同意せざるを得ないが、なぜコミー・レターで天秤が簡単にひっくり返ったのかということを考えなければならない。それはヒラリー氏の私用メール問題がことほど左様に根深い問題であること、また謝罪で済む問題ではないことである。私の親しいFBI捜査官によると、私用メール問題は確信犯であると言っていた。
『A Woman in Charge』という本の中で、ヒラリー氏が隠し続けてきた過去を洗いざらい書き、完膚なきまでに彼女を打ちのめした、元ワシントンポスト紙記者のカール・バーンスティーン氏は、1970年代の「ウォーターゲート事件」を暴露した辣腕記者のひとりだ。彼は筆者の取材に対して、「ヒラリー氏のメール問題は、最後の最後までつきまとうだろう」と答えた。
コミー氏は後に議会で、「選挙後に、『なぜこの問題を投票前に言わなかったのか』と批判されないために持ち出した」という趣旨の証言をしている。つまり、ヒラリー票を動かすためではなかったということだ。